愛されないヒロインとその家族

ではなぜここまでダメ出しを受ける結果を招いてしまったのか。

今や社会現象のように加熱しているだけに、その理由は1つではなさそうだが、最有力視されるのは「国民的ヒロインになるはずの主人公・暢子(黒島結菜)」が愛しづらいキャラクターだから。

2015年8月22日、映画『at Home アットホーム』公開初日の舞台あいさつに登壇した女優の黒島結菜さん(東京都新宿区のバルト9)
2015年8月22日、映画『at Home アットホーム』公開初日の舞台あいさつに登壇した女優の黒島結菜さん(東京都新宿区のバルト9)(写真=時事通信フォト)

料理人を目指して上京後、「オーナーや先輩料理人に反発しすぎ」「髪を束ねず不衛生」「略奪で恋を成就させた」「婚約者の母への押しつけ弁当」など、その未熟さをダメ出しする形で反省会が盛り上がっていった。

もともと朝ドラのヒロインは、「未熟な状態から努力を重ねて成長していく姿を見せていく」のがセオリーだが、当作の暢子は努力するシーンが少ない上になかなか成長しない。折り返し地点を過ぎても、最終話が近づいてきても、未熟な振る舞いを繰り返す姿に、視聴者が不満を抱いているのだ。

その「愛しづらい」という点では、暢子の家族も同様だろう。繰り返し詐欺に遭って家族を窮地に追い込んだほか、助けてくれた養豚場の父娘を何度も裏切る兄・賢秀(竜星涼)、その兄を甘やかして金を与え続け家計を逼迫ひっぱくさせる母・優子(仲間由紀恵)、勤務先でも嫁ぎ先でも常にいら立ち自分の考えをぶつける良子(川口春奈)。

制作サイドの問題

「ちむどんどん」は放送前から「家族の物語」であることを打ち出していただけに、なぜこれほど視聴者が愛しづらい設定ばかりにしてしまったのか。その点は理解不能であり、視聴者を「感情移入も応援もできない」という心理状態にさせている。

なかでも賢秀の設定に関しては、「ダメな家族を入れてヒロインの物語を動かしていく」という朝ドラの定番を踏襲したものだが、ネット上の反響を狙ってダメ男ぶりをエスカレートしすぎた感は否めない。この点は制作サイドが「安易だった」とダメ出しされても反論できないはずだ。

負の感情を増幅した「反省会」

また、冒頭に挙げた「#ちむどんどん反省会」が盛り上がったことが、ダメ出しの数を雪だるま式に増やしてしまったのは間違いないだろう。

連日ダメ出ししやすいところだけをピックアップして、よかったところはスルー。人々が競い合うようにアップしていくため、これまでなら気にならなかったレベルのものまでがダメ出しの対象となり、それに「いいね」が押されることで「ありえない」「ひどすぎる」という負の感情が増していく。

前述したように「毒にも薬にもならない作品」という程度のはずが、「毒としか思えない」と感じる人が多くなってしまったのは、負の感情を日々積み重ねていったところが大きいのではないか。