反ウクライナ感情をあおる偽情報の出どころは

【増田】7月29日に、時事通信社がAFP発の〈変容するウクライナ難民への視線、偽情報があおる反感〉という記事を配信しました。記事はこんな言葉から始まります。

「うわっ、ウクライナ人が来た。あっちに行こう」。東欧チェコの首都プラハ北方の町ホルビツェに暮らすドミニカ・ソクルさん(41)は、子どもたちを公園に連れて行くたび、こんな敵意に満ちた言葉を聞くようになった。

チェコやポーランド、ルーマニアなどの東欧で「ウクライナ人差別」ともいうべき現象が起こりつつある、というのです。

しかし記事全体としては、「避難民としてやってきたウクライナ人が、地元に住む『われわれ』の資源や税金を奪っている」と思い込んでいる人たちが少しずつ増えてきているが、その原因になっているのはソーシャルメディアの記事として拡散されている偽情報である、としています。

東欧のソーシャルメディアには、ウクライナナンバーの高級車の画像や、裕福そうなウクライナ人が政府の支援に列をつくっているのを見たという出どころ不明の匿名の情報があふれている。(中略)

ポーランドでは、偽情報を広めていることで知られるブログに最近、ウクライナ難民は無料で商品券をもらっているのに、困窮するポーランド人は何ももらえず放置されているという誤った主張が掲載された。 (中略)

難民受け入れ数が人口比で最も多いチェコでは、ウクライナ難民の4人家族が受け取れる給付金は月額9万チェコ・コルナ(約50万円)で、一般家庭の月収よりはるかに多いとする偽情報が拡散された。

2022年3月10日、ワルシャワ行きのバスでウクライナを出発する人々
写真=iStock.com/Joel Carillet
2022年3月10日、ワルシャワ行きのバスでウクライナを出発する人々

偽情報が極右と結びついて深刻な対立に発展する

【池上】記事ではその発信源として、特定はしていないものの「反ウクライナ感情をあおるのはロシアのプロパガンダの特徴」と、暗に偽情報がロシア発の可能性を示唆しています。ウクライナ侵攻が非難されている中で「ロシアが正しい」という話を流しても、欧米の人々には受け入れてもらえない。だから「ウクライナ避難民が来るとみんな困るぞ」と反ウクライナ感情をあおっているんだと考えているわけですね。ロシアは国家を挙げて偽情報を拡散させるという“実績”がありますから。

【増田】記事では「偽情報は極右政党とつながりのあるアカウントに書き込まれることが多い」としています。確かにシリア難民についても、「難民への給付金が多すぎる」などの情報がドイツ国内で飛び交いましたが、こうした情報は主に極右派が発信源になっていました。実際にシリア難民にわたっている給付金は、「ギリギリ生活できるかどうか」という額だったにもかかわらず、極右派が「われわれの年金よりも多い額を難民が手にしている」などと対立をあおるような情報をアナウンスしていたのです。