資生堂が行った改革の中身

実際、資生堂では魚谷雅彦社長が2014年に就任して以来、そうした改革を推し進めてきた。同社は世界120カ国の国・地域で事業展開しており、海外売上高比率は6割を超える。化粧品には、文化や価値観の異なる顧客への対応が必要になる。

そのために地域本部制を置いて、きめ細かくローカルニーズに対応すると同時に、日本を「一地域事業」という扱いにした。それと同時に、経営の重要要素となるデジタルや特殊領域である香水等についてはCoE(センター・オブ・エクセレンス)を設け、それぞれ米国やフランスを中心にして、本質的な提案や発信を可能にした。

同社の公表資料にも、「本社中心の日本人駐在員による国際事業の管理体制」から「グローバル経営体制」、さらに「Connected Multi-Value Creation」と、経営体制を変え続けていることが示されている。

「Connected Multi-Value Creation」とは、同社の資料によると「日本の本社が各地域を管理・コントロールするのではなく、それぞれの地域本社が、単なる販売拠点としての役割を越え、価値創造の拠点になることを目指」すことだとしている。

こうした体制を作るためには、世界事業をやりくりする本社スタッフが、異質なものを排除するのではなく、取り入れて、新しいことを生み出し、止めるべきは止めるというケイパビリティが必要になる。

事業運営に欠くことのできない2つの課題

世界の中では、ドイツ人気質は日本人気質と合うとよく聞く。そして自動車産業が国の経済基盤となっている点でも似ている。しかし、そんなドイツの企業でさえ、自国ドイツは一市場であり、リーダーにはドイツ人ではない中途の人財を採用している。それは、世界で戦うことを意識していることの反映にほかならない。

大手日本企業には、複数の事業を抱えており、一概に日本を一市場にして、ということが難しいこともある。その場合でも、事業ごとに自分たちで必要な事業モデルを見極めた事業運営を設計することは可能だ。

筆者が関わったある会社では、売上高は1兆円を超えていたが、成長率は数%という状態だった。そんな中で、売上高が約1200億円の部材事業だけは海外市場の成長のおかげで2ケタ成長を続けており、さらなる成長のためには、日本での意思決定や試作開発業務がボトルネックとなっていた。

半年の議論を踏まえ、事業部長は事業の世界レベルでの企画・意思決定機能を欧州に移し、そのためにスタッフ人事も大幅に変えるという変革を断行した。同事業はこの移行期を終え、今はこれからの成長の基盤が機能し始めている。

海外展開で苦労する日本企業、という表現には、実は事業運営に欠くことのできない2つの課題が含まれている。

多様性を取り入れた組織体と運営の実現、その上で自分たちの事業のモデルが今どのような形である必要があるかを見極め、適応させていく、という2つだ。

日本企業が海外展開で成功し、世界でもう一度影響力を出すだけの存在になるためには、逆説的だが、多様性があり、日本は一市場であり、男性や日本人だけでがんばるのではない、という前提での新たな運営へのシフトが必要である。

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