食べるだけで健康を保証するマジックフーズは存在しない

特定の食品が健康や病気に与える影響を誇大に評価したり、信奉することを「フードファディズム」という。この概念を日本に紹介したことで知られる群馬大学の髙橋久仁子名誉教授は、著書『「食べもの神話」の落とし穴 巷にはびこるフードファディズム』(講談社ブルーバックス)の中で次のように指摘している。

休養や運動の不足、さらには不摂生な生活習慣のツケを帳消しにしてくれる「マジックフーズ」があるのではないか、あるといいな、という思いが「栄養」に対する過大な期待や関心を生んでいると思われます。

しかし、「それ」を食べさえすれば健康が保証されるというマジックフーズはありません。あるのは「健康の維持・増進に効果的な食事のしかた」や「病気になりにくい食生活の営み方」です。

多忙な生活に起因する疲労や睡眠不足は、十分な食事や休息を取らなければ改善できません。体調の不良はその原因を探し、それを解決しなければ健康回復は望めません。根本的な解決を後回しにして、食だけで何とかできると思うのは誤りです。

架空の経歴に引っかかってくるカモを待つ手口

健康食品の「薬効」を強調し、特定の症状に「効きます」と表示すれば、薬事法違反にあたることから、業者は巧みな宣伝文句で消費者の目を引き付ける。

さしずめ久郷グループが巧妙なのは、実在するかどうかもはっきりしない“体験者の声”を大量に載せて、「自分たちが言っているわけではない」という体裁を整えていることだ。あとは著者の架空の経歴に騙され、自ら引っかかってくるカモを待つのである。

1926年岐阜県に生まれる。1953年、京都大学医学部薬学科卒業、同大学で植物化学の研究を続け、1960年、薬学博士の学位を取得。のちに栄養学の研究に転じ、1962年森永乳業(株)に入社、健康食品や医薬品、腸内細菌などの研究にあたる。1971年旧ソ連ほか10カ国を訪ね、生活習慣病と自然治癒について研究を深める。現在IHSヘルスサイエンスドクターとして、家庭でできる健康法と生活習慣病予防の食事、腸内細菌正常化などの研究や指導にあたる(最後の監修本となった『大人の粉ミルク』より)

人倫にもとる行為だが、明らかな健康被害が出ていないため、久郷グループは摘発されていない。