一計を案じて社内の意識を改革

出所:厚生労働省「毎月勤労統計調査」。事業所規模30人以上の一般労働者の対前年比

しかし、鈴木社長には「絶対にできる」という自信があった。たとえば20時まで働かなくてはならないとしたら、「いつ夕食をとれるのかわからず、途中で済ませておこうか」となる。近所でラーメンを食べるにしても、小一時間は仕事から離れる。その時間を仕事に充てれば、19時に帰れる計算が成り立つからである。

それに「何時に帰れるのかはっきりしなかった時代は、どのお客さまに電話しようかとパソコン上の顧客情報を漫然とながめているような時間が多かった」と中田さんが指摘するように、無意識のうちに浪費している時間は意外とある。それらを切り詰めればよい。

一部の営業現場からは「どうしても夜に来てほしいという大切なお客さまがいる」との声も上がった。それに対して鈴木社長は「まず、お客さまに会社のシステムが変わったことをきちんと説明しなさい。あなたが優秀な営業マンなら、お客さまに納得してもらえるように説得できる能力を備えているはずでしょう」と説いた。

18時30分を過ぎると社員が一斉に家路につく。

それでも当初は、最後に各支店の鍵を閉めた時間は19時30分、よくて19時15分だった。鈴木社長には「どうせ長続きはしない。すぐ元に戻るだろう」という社内の潜在的な意識が、そのデータの端々から読み取れた。そこで一計を案じ、自分が退社時間をすべてチェックしていることを人事部経由で全社にアナウンス。その途端に「これは本気だ」と社内の受け止め方が変わった。

それからというもの、退社時間は19時から18時30分、そして18時へと徐々に前倒しされていく。鈴木社長が「定着した」と実感できたのはスタートから半年後のこと。いまでは若手社員は定時の17時10分過ぎになるとどんどん退社する。しかし、「ときどき手綱を締めないと、すぐ元に戻ってしまう」と鈴木社長は戒める。それゆえ08年4月に設置したワーク・ライフ・バランス推進委員会の委員長に就任し、年4回の委員会で檄を飛ばすのだ。