「ブロックオファー」自体は違法ではない

証券大手のSMBC日興証券幹部らによる相場操縦事件は、ついに副社長の逮捕に発展し、会社ぐるみでの不正取引が行われていた疑いが強まった。特定の銘柄の株価下落を防ぐために大量の株式を買い付けていたことが金融商品取引法違反の相場操縦に当たるとされた。

記者会見で厳しい表情を見せるSMBC日興証券の近藤雄一郎社長=2022年3月5日午後、東京都千代田区
写真=時事通信フォト
記者会見で厳しい表情を見せるSMBC日興証券の近藤雄一郎社長=2022年3月5日午後、東京都千代田区

すでに副社長が統括するエクイティ本部の前本部長ら幹部が逮捕されており、法人としてのSMBC日興証券と幹部5人が相場操縦の罪で起訴された。副社長は特捜部の調べに対して「取り引きの報告は受けていたが、違法という認識はなかった」と説明していたという。

今回、問題とされたのは、「ブロックオファー」と呼ばれる株取引に関連した株の売買。「ブロックオファー」は、証券会社が、大株主から特定の銘柄の株を大量に買い取ったうえで、取引所の時間外で、市場価格より低い価格で個人投資家に売却する取り引きで、これ自体は違法ではない通常の取引だ。

大株主が大量の株を売却したい場合、市場で売却すれば株価の大幅な下落を招くことになる。「ブロックオファー」を使えば、大株主は値崩れさせることなく一気に保有株を売却できる。一方、証券会社から勧められて株式を買う個人投資家の側も、市場価格よりも安く株式を購入できるメリットがある。もちろん、証券会社にとっては大量の株式の転売によって利益を得ることができる。

証券会社による買い支えが「相場操縦」に当たるとされた

証券会社の買い取り価格は、設定した基準日の終値をもとに決める。個人投資家などに情報を伝えた結果、株が売られたり、値下がりを見越した「空売り」が入ると、株価が大きく値下がりすることになりかねない。そうなると大株主が売却自体を取りやめる可能性もある。

今回問題になった取引は、投資家からの空売り注文が相次いだため、SMBC日興証券が株価を維持しようと、証券会社の自己資金を使って大量の株を買い付けていたとされている。この買い支えが「相場操縦」に当たるというわけだ。SMBC日興証券の近藤雄一郎社長も記者会見で、ブロックオファーの価格が決まる時間帯に自社で買い付けを行っていたことを認め、「市場の公平性と公正性に疑問を生じさせる行為であることは明らか」と謝罪した。

なぜ、こんな事件が起きるのだろうか。ひとことで言えば、日本の証券会社が引きずる昔ながらの「体質」がある。