「才能があるものに支払うのは当然」だが……

お金を稼ぐこと自体はもちろん悪いことではありません。だからといって、お金を稼ぐことを唯一の目的としてしまうと、人生で大きな間違いを犯すことになりがちです。

バフェットはソロモン・ブラザーズの株主として取締役会に名前を連ねていましたが、1991年まで同社が期待通りの利益をもたらすことはなく、失望と挫折を味わっていました。手元に届く財務報告書は、最新のものではないことが多いうえ、収益も落ち込む一方でした。理由は過大な社員報酬のためでした。なかでもジョン・メリウェザー率いるアーブ・ボーイズ(裁定取引組)の報酬は過大で、ある年にはそれまで300万ドルのボーナスを得ていた1人が2300万ドルに増額されることさえあったほどです。

バフェットは高額のボーナス自体に反対していたわけではありません。「才能があるものに支払うのは当然のことだ」(『スノーボール(改訂新版) ウォーレン・バフェット伝』)と理解を示してはいたものの、毎度毎度巨額なボーナスを要求する同社の社員たちの強欲さには辟易していました。

強欲さが招いた嫉妬と不正

そして、こうした強欲さがやがて同社に大きな危機を招きました。

ソロモン・ブラザーズで国債の不正入札を行ったポール・モウザーは国債部門の責任者であり、相手を見下すような態度を取ることもありましたが、ともに仕事をする仲間からは好かれていたといいます。彼の当時の報酬は475万ドルでした。かなりの額です。

しかし、為替部門を数カ月で黒字化したモウザーにとってその報酬はあまりにも少なすぎました。元の同僚だったラリー・ヒリブランドが秘密のボーナスによって2300万ドルもの報酬を得ていると知って以来、不正に手を染めるようになっていったのです。

それ以前、アーブ・ボーイズの誰よりも高い報酬を得ていたモウザーにはこの大きな差は許しがたいものであり、屈辱でもあったのです。

もちろんそれだけが不正の理由とは限りませんが、こうした逆上の背景には嫉妬があるというのがバフェットの見方です。「真の原因は欲望ではなく、嫉妬です。(中略)200万ドルをもらえたら、みんな満足します。しかしそれは、210万ドルをもらっている者がいることを知るまでの話です」(『バフェットの株主総会』)。嫉妬は人間を惨めな気持ちにさせ、時に判断を狂わせます。特にお金の場合は嫉妬だけでなく、「お金を手にするために何でもしよう」という不正につながりやすいという問題があります。