こうしたカベは存在しても仕組みの構築は日本企業よりも韓国企業が先んじている。言葉のカベは新卒の英語採用要件や外国人役員の採用により英語が使えなければ仕事ができない状況にある。また、グローバルな異動を可能にする人事制度も統一されている。たとえばLGEには「グローバルトータル報酬制度」があり、社員の職務で格付けされたベース給に個人業績とカンパニー業績によるインセンティブが上乗せされる仕組みだ。

「賃金水準は同じグレードであっても韓国よりアメリカのほうが高いという国による違いはあるが、世界共通の人事・報酬制度になっている」(李教授)

本社のグローバル化に加えて海外拠点のキーとなるタレント人材の育成と統一された人事制度。つまり、グローバルな人材マネジメントを可能にする仕組みはすでに整っている。それに対して日本企業はどうだろうか。一部の企業では人事制度の統一や海外のタレント人材の発掘と教育に乗り出している。しかし、大半の企業は日本的人事制度をどのように改革し、世界共通の人事制度をどのようなものにするのか描けないでいる。

また、グローバル化を意識した留学生など外国人の新卒を採用する動きが広がっているが、ほとんどの企業は日本語ができることを要件にするなど本社のグローバル化もそれほど進んでいるとはいえない。

もう一つの韓国企業と日本企業の違いは、強力なオーナーシップの有無である。李教授は「韓国企業は家族経営によるオーナー企業であり、オーナーが意思決定すれば素早く行動するというスピード感がある。規則やマニュアルを重視する日本企業と違う点ではないか」と示唆する。それゆえに急激な改革の危うさも併せ持つが、通貨危機で傾いた経営を強力なオーナーシップで乗り越え、成長してきたのは確かだ。

グローバルな人材競争力において日本企業は韓国企業に負ける――。そうした危機感が現実のものとなる日はそう遠くないかもしれない。

※すべて雑誌掲載当時

(宇佐見利明=撮影 AP/AFLO=写真 American Managemet Association=写真提供)