「中華民国の勝利!」――馬英九総統が再選の勝利宣言を行った瞬間、折からの雨は一層激しさを増し、スポットライトに白くけぶった。国民党現職候補の馬氏の得票は約689万票。民進党の蔡英文氏に約80万票(全得票数の約6%)の票差をつけた。この差をつけたのは“中国経済ファクター”だ。

選挙前夕、鴻海集団の郭台銘総裁や台塑集団の王文淵総裁ら中国市場に進出する台湾大手企業のトップが次々と馬総統支持を打ち出した。義聯集団の林義守会長は「(もし馬総統が再選すれば)今後3年から5年の間、高雄市にさらに400億新台湾ドルを投資する」とまで発言し、民進党支持者が多い高雄市の票を国民党に誘導しようとした。台湾企業トップの言動の背後には、中国当局の働きかけがあったと見られている。また中国当局が選挙前の台湾直行便の増便を決定し、その料金を半額に抑えさせ、在中台湾ビジネスマンの帰郷投票を促したことも、国民党有利に働いた。蔡氏は現代の「国共合作」の前に敗北したのだった。

もちろん、中国経済効果がさほど表れなかった地域もある。台南市学甲区のサバヒー(虱目魚)養殖農家はほとんどが中国向け輸出で生計を立てているが、この地域で国民党票はむしろ減った。南部の農業・漁業や観光地は中国依存が深まっているものの、逆に横暴な中国代理店や観光客に対する被搾取感も出ていると指摘された。しかし馬総統は今後4年、さらに中国経済との緊密化・一体化を進めることは間違いなく、それを中国側も歓迎するだろう。

問題は、馬総統も言明している中国との「和平協定」に至る政治交渉が始まるか否か。圧倒的経済力と外交手腕を持つ中国相手に互角の交渉ができないことは馬総統も承知のはず。よほど愚かでない限り、自ら動くことはありえない。鍵は中国の習近平次期政権の性格だ。習近平政権が自らの権威づけに和平協定の果実を急いで求めるならば、馬総統はノーと言えるか。抗えば中台関係はにわかに緊迫し、恭順すれば台湾の人々が一番望んでいた現状維持すら難しくなる。選挙勝利の美酒に酔うのもつかの間、馬政権二期目の4年は冷たく激しい雨が降り続くはずである。