真の人間関係を築くためには

私が身近で見た際、幸之助が人の話を途中で遮るということはついぞなかった。知っていることでも最後まで聞き、反対意見でもそのまま理解に努め、相手が正しいと思えば取り入れる……幸之助のこの行動は松下電器の発展に大きく影響した。

ひどい不況だった1964年、松下電器の販売会社社長を集めた全国会議での幸之助の立ち居振る舞いにそれが表れている。

幸之助は会議を予定よりも1日延長させて、社長たちに松下電器への苦情や批判を自由に話させ、話が出尽くすまで傾聴に徹した。そのうえで「そこまで苦しんでおられるとは知りませんでした」と心底から理解し共感した。その後「すべて私をはじめ当方の慢心が原因です。深くお詫びいたします」と話をそのまま受容し涙ながらに詫びたのだ。

また、聞くだけではなく、

「同じ状況の中で、利益を上げている会社もあるではありませんか。いったいどれだけ真剣に経営されているのですか」

と直言もした。

こうした受容と直言のやりとりによって、参加した社長たちは自分に目覚め、幸之助と心が通じたのである。

コミュニケーションと人間関係の変革によって集団は変わり、アウトプットが大化けする。それは一人のリーダーの姿勢によって可能になる。表面的なタテマエではなく真のコミュニケーションを行っているか、我々も時に自問してみるべきだろう。