社員の自主性を引き出す方法

幸之助の危機対策や経営改革、いくつかの主力商品で行った基本スペックに関するトップダウンは熾烈を極めた。それは衆知を集め道理に照らして信念に基づいていたため、ぶれようがなかった。そのうえ、自ら陣頭指揮を執り結果が出るまでやめない。

このすさまじい「強制」は、同時に「自由」をつくり出す根源となった。社員は強烈なトップダウンによって、基本方針を明確に認識できたため、トップの方向性が明確でない場合に比べて、思いきり自主性や創造性を発揮できたのだ。松下の「事業部制」は、自由な権限委譲の最たる例だろう。

幸之助が権限委譲をして100%任せると、それは責任も100%となることを意味した。だから結果のチェックは実にシビアだった。事業部長なら2年連続の赤字、営業所長なら1000万円以上の不良債権を出せば解任という厳しさだ。ただし、そこには必ず思い切った抜擢と敗者復活があった。

信賞必罰は、人や方法をこまごまと枠にはめ込む管理でなかったら、むしろヤル気と自主性、創造性をかきたてる。

「信賞必罰の適切さは、発展の大きな根源にもなるものである」

「それぞれの個性を抑えてこうせい、ああせいと言わないで、自由奔放に仕事をさせたらいい。けれども(山に登るときに)山から降りる方向へ行ったら、ちょっと待て、そらあかんと言わないといけないですな」

今、日本の指導者のリーダーシップは、強制も自由もないものになっていないだろうか?

(Time&Life Pictures/Getty Images=写真)