医者は年収数千万円 エンジニアは10億円

東大刺傷事件で逮捕された高校2年生は、将来は医者になるために東大医学部に執着したらしい。大学受験では、安定かつ給料が高い医師を目指せる医学部が人気らしいが、多くの人が勘違いしている。そういった魅力が、医者からなくなりつつあることを知らない。

昔は医学部を卒業したら、勤務医として働きながら資金を貯め、自分の病院を開業することができたが、いまは開業できる医者が少ない。開業資金が貯まらないのだ。

いまの開業資金は、病院の規模によって違うが、設備などを含めて2億円はかかる。勤務医の平均年収は、病院なら1500万円ほど、クリニックは1000万円ほどだ。夜勤があるなど、きつい仕事の割に給料は高くない。給料から開業資金を貯めていくのは難しいだろう。勤務医を20年以上も続けて、50歳を過ぎてやっとクリニックを開業できるかどうか。しかも、開業時の借金は何歳まで働けば返済できるのか、という不安が付きまとう中での開業になるというのが現実だ。

一方で、1月にユニクロなどを展開するファーストリテイリングが、IT人材の中途採用で年収を最大10億円に引き上げると発表した。東大医学部を卒業しても、10億円どころか1億円も稼げないだろう。開業医の平均年収は、診療科目によって差はあるが、全体では2400万円ほどだ。よほど大きな病院を建てて経営しないと、年収1億円にならない。

確かに、工業化社会の時代は、大企業の社長でも年収2000万円ほどで、社長より稼ぎが多い開業医は憧れの的だった。昔の開業医は、製薬会社など協力会社の便宜などで儲けられる部分がかなりたくさんあったからだ。

たとえば、有力な病院は、医薬品や医療用品の仕入れ値をほかより下げてもらえた。製薬会社のMR(営業担当者)が無料の試供品をたくさん持ってきたら、それで稼ぐこともできた。血液検査などの臨床検査も割安にしてもらえる。病院が繁盛すれば、製薬会社も儲かるという利権の連鎖だ。

病院の税金には、保険診療報酬が年間2500万円以下の病院は概算経費率が72%などといった優遇措置がある。だから、仕入れ値が安くなり、試供品で売り上げを上げても、高い経費率のおかげで税金が安くなり、手元にキャッシュが残った。これが、高級ベンツを買う医者が多いカラクリだった。

しかし現在は、医療業界の癒着や悪しき慣習が見直されつつあり、ウラで儲ける仕掛けは少なくなってきた。利権構造が崩れて激務だけが残れば、時給換算すれば割に合わない仕事になる。