図表1に示すように、名目実効為替相場(NEER)ベースの円安は穏当なものにとどまっている。

円の実効相場(名目・実質)と長期平均の推移

具体的に長期平均(20年平均)と比べた場合、2022年1月のREERは▲19.3%過小評価されているが、NEERは▲6.9%にとどまっている。

REERとNEERの差は諸外国との物価格差なので、ここからは海外と比較した日本のディスインフレ状況が著しい現状が見て取れる。日本の物価情勢が芳しくないことは元々の話ではあるが、REERとNEERの格差がここまで開いたことはない。

こうした状況に至った背景は明確である。世界の景気循環が均質化している現代において、過去1年は日本だけが断続的にマイナス成長を繰り返した。その理由はこれまで何度も論じているが、日本特有の情緒的なコロナ対策の結果としか言いようがない。

「経済の体温」は下がるばかり…

2021年、欧米は潜在成長率の倍速以上で成長したのに日本だけそうならなかったのは、政策的に消費・投資意欲をそぐ措置が慢性化していたからに他ならない。

必然的に「経済の体温」である物価に関し、日本とそれ以外の国で差は開く。

もちろん、諸外国は程度の差こそあれ、物価上昇に順じる格好で賃金も伸びている。ということは、今後、ドル/円相場などに象徴される名目相場の水準がどうであれ、実質相場の停滞を背景に日本が国際貿易の世界において「買い負け」することが懸念される。

実際、魚介類や肉類の買い付けにおいて中国に競り負けるというニュースは近年散見されるようになっている。世の中はドル/円相場の水準に着目しがちではあるが、REERの下落も日常生活に多大なる影響を持つことは忘れてはならない。

いや、むしろ名目のドル/円相場が動意を失っている以上、為政者はREERを注視した方が賢明ではないかと思える。

観光立国化の起爆剤、安い日本の始まり…

なお、「REERが安い」という事実は今後、海外から日本へやってくる人々が目にする価格設定が相対的に安く感じることも意味する。

言い換えれば、REERが大幅に下がったことで「コロナ以前と比較して購買力が著しくパワーアップした人々が海外からやってくる」という状況が到来することになる。

これを「観光立国化の起爆剤」と捉えることも可能であると同時に、「安い日本の始まり」と捉えることも可能である。

いずれにせよ経済活動において「コストが安い」という事実は重要な競争力の源泉であることは間違いないのだから何とかこの状況を活かして日本経済の復調を図るしかない。

こうして考えると従前継続され、非科学的な措置だと批判されてきた入国規制の在り方などは長期的なビジョンに欠ける愚策であったと言わざるを得ない。