アメリカ現代思想とは“タテマエ”の思想だった

岡本裕一朗『アメリカ現代思想の教室 リベラリズムからポスト資本主義まで』(PHP新書)
岡本裕一朗『アメリカ現代思想の教室 リベラリズムからポスト資本主義まで』(PHP新書)

このように見ると、トランプが何を変えたのかが分かってくるのではないだろうか。今まで、政治でも思想でも公言することができず、たえず抑圧されてきたホンネの欲望――これが噴出するようになったのである。そして、それを表現する思想が新たに生まれつつある。

今まで、アメリカの現代思想と言えば、言ってみれば、PCのコードにしっかりと守られたタテマエの思想だった。良識的な意識を代表するエリート層の思想と言ったらいいかもしれない。

それをひとまず、「リベラル・デモクラシー」派と呼ぶことにしよう。PCが1980年代に広まるとき、リベラル派が提唱した「アファーマティブ・アクション」が大きな力になったことはよく知られている。これは、「積極的是正措置」とも訳され、差別を撤廃するために就職や入試などで弱者集団を優遇するものだ。具体的には、アフリカ系や南米系の人には点数が加算され、素点の高い白人の学生よりも入学しやすくなる。

トランプは思想のルールを根底から変えてしまった

また、PCが浸透したのは、グローバリゼーションの進展によって、多文化主義が強調されたことも影響している。こうした多文化主義の基本にあるのは、多様な集団の平等性であり、それを支えるのがデモクラシーとされている。

このように考えると、今までのほとんどの思想が、この中に入ってしまうのである。リベラル・デモクラシーを公然と批判する思想が、はたしてあっただろうか。そんな主張をすれば、おそらくナチス・ドイツの再来(ネオナチ)と見なされ、国民から支持されることはないだろう。ところが、トランプはまさに、これを批判のターゲットにしたのだ。

したがって、今までの思想のルールが、トランプによってすっかり根底から変わり始めたと考えなくてはならない。

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