「保守二大政党」の構図を何としても取り戻したい人たち

「維新上げ」はある意味歴史的なものだ。冷戦が崩壊してからの30年余り、日本の政界は政治家も学識者もメディアもこぞって「保守二大政党」を追い求めた。社会民主主義とかリベラルといったものは「負け組」「古びたもの」として政治の脇へ追いやろうとしてきた。その最たるものが2017年の「希望の党騒動」。まさにリベラル勢力を政界から一掃しようという動きだった。改革保守勢力たる維新を持ち上げる動きも、この流れの中にある。

だが、リベラル勢力は意外にしぶとかった。民主党は「リベラルは愛である」と語っていた鳩山由紀夫代表の時代に政権交代を成し遂げ、菅直人氏も首相になった。希望の党騒動の際はリベラル勢力の「救命ボート」として結党された立憲民主党が、その希望の党を抑えて野党第1党の座を勝ち取った。昨年の衆院選では自民党に下野の恐怖を与え、首相の首をすげ替えさせ、そしてついに前述した「保守(自民)vsリベラル(立憲)」の対立構図を生んだ。

「保守二大政党」志向の人々にとって、この状況が面白いわけがない。今、現実のデータの評価を若干ゆがめてまで声高な「維新上げ、立憲下げ」が続いているのは、リベラル勢力が政権選択の一翼を「担ってしまった」現在の状況を破壊し、再び「保守二大政党」の軌道に戻したい人々の声が、今の政界でそれだけ大きい、ということなのだろう。

参院選の結果次第では「万年野党」を歩む可能性も

筆者は、維新がそんなに簡単に、立憲に迫る勢力になるとは考えていない。維新は先の衆院選で「4倍増の躍進」と騒がれたが、それは前々回の2017年衆院選が、希望の党騒動という特殊事情の中で戦われ、維新の票が希望の党に流れたからだ。維新が先の衆院選で獲得した41議席は、希望の党騒動の一つ前、2014年衆院選での獲得議席と同じ。要は希望の党騒動前の議席に戻っただけにすぎない。

また維新は地方組織も、大阪以外では立憲民主党以上に心もとない。メディアの後押しで空中戦を有利に進めることに活路を見いだそうとしている、というのが維新の現状だと思う。

とはいえ現在の「維新上げ、立憲下げ」の言論環境は手強い。菅直人氏のヒトラー発言に目くじらを立てる論評はあっても、維新議員のこれまでの幾多の悪口雑言はほとんどスルーされている。その分かりやすい例の一つが、前述した朝日新聞の報道であろう。文通費について事実関係もお構いなしに「事実上の『談合』」などと国会で発言し、答弁できない野党を貶めるような発言を、問題にするどころか、逆に「事実上」持ち上げてしまっているのだ。意図しているか否かは別として。

こんな言論環境のなかで、参院選に向けた空中戦はかなりの威力を持つことになるかもしれない。

繰り返すが、参院選は野党間競争の側面が、衆院選に比べて強く出る。公正とは言いがたい現在の言論環境のなかで、立憲民主党が自民党だけを相手に「提案型」なるスタイルで優等生的な政治を繰り返すだけなら、後ろから維新に殴り倒されかねない。先の衆院選で辻元清美氏が維新の牙城・大阪で落選した痛手が、党全体に広がる可能性もある。

参院選で維新の大きな躍進を許せば、維新に実力以上の期待が高まり、その後の次期衆院選で立憲民主党は野党第1党の座を脅かされかねない。前述したように、小選挙区制は二大政党が特に優位になりがちだ。一度野党第2党に転落すれば、第1党への浮上は容易ではない。政権への挑戦権を長期的に手放し、万年野党への道を歩むことになりかねない。それでいいのだろうか。