子どもはどうすれば勉強をするのか。児童精神科医の宮口幸治氏は「医療少年院で、子ども同士に教え合いをさせたら、がぜんやる気になった」という。解剖学者の養老孟司氏との対談をお届けしよう――。

※本稿は、養老孟司『子どもが心配』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

机の上の本
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人の役に立ちたい子どもたち

——勉強への意欲をいかに引き出すか、というテーマについて取り上げたく思います。宮口幸治先生のご著書『ケーキの切れない非行少年たち』のなかに、非行少年が人に頼られることでやる気を出した、というようなエピソードが紹介されていましたが、詳しく教えていただけないでしょうか。

【宮口】はい、私も医療少年院に勤めた最初のうちは、トレーニングを通していろんなことを教えよう、教えようとがんばりました。ところが少年たちは、まったく興味を示さない。自己評価が低いこともあって、「どうせできない。やってもムダ」とばかりに何もやろうとしないのです。やる気のかけらも感じられませんでした。

しばらく続けましたが、なかなかうまくいかず、「やっぱりムリかな」と指導するのがイヤになってきました。あるとき、もう投げやりになってしまって、文句ばかり言ってくる子どもに「では替わりにやってくれ」と、少年を教壇に立たせてみました。

何かを期待していたわけではありません。教える人間の苦労を体験させようと思っただけです。ところが驚いたことに、少年たちが次々と「自分にやらせて」「自分が教える」と先を争うように教壇に出てきたのです。

そうして教え合うことで、競争意識が芽生えたのでしょうか。みんな、がぜんやる気を出して、真剣に、生き生きとトレーニングに参加するようになりました。

このことから私自身が学んだのは、「人が一番幸せを感じるのは、人の役に立つことなんだ」ということです。非行少年に限らず、人は誰かに何かをやってもらうより、自分が助けてあげることに喜びを感じるのだと思います。