大谷翔平に感じた「謎」

大谷翔平が日本ハムにいたころ、言葉を交わす機会があった。そのとき受けた印象は、素直で謙虚。うぬぼれや浮わついたところもなく、もっと成長するためにはどうすればいいのか、何が必要なのか、しっかり考えているようだった。

当時、彼は20歳をいくつか越えたばかりだった。なぜそこまでしっかりした考え方ができるのかと不思議に感じたものだが、高校時代に彼が「目標達成シート」なるものをつくっていたという話を聞いて、その理由の一端に納得できた。

これは「マンダラチャート」とも呼ばれるものらしく、9×9の81マスからなる表の真ん中に最終目標を記入し、その周りの8マスにそのためにすべきこと、必要なことを書き入れていくという。花巻東高校の佐々木洋監督が選手たちに書かせたそうだ。

ちなみに、高校1年生だった大谷が最終目標に掲げたのは「ドラ1・8球団」だそうだ。すなわち「8球団からドラフト1位指名を受ける」ことで、そのために必要な要素として「コントロール」「キレ」「スピード160km/h」「変化球」「運」「人間性」「メンタル」「体づくり」の8つを書き込んでいたという。

エンゼルスタジアム正面玄関
写真=iStock.com/USA-TARO
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不滅の記録をつくれ

私にとって興味深かったのは、「ドラ1・8球団」の最終目標を達成するためには「人間性」が必要だと、大谷が当時から考えていたことだ。「人間的成長なくして技術的成長なし」と私が常々いってきたことを大谷は高校生のころにはすでに理解していたわけだ。プロの選手でも理解できない人間がいくらでもいるにもかかわらず。

物事に能動的に取り組む意欲を引き出すためには、そして仕事を楽しみにし、人生を楽園にするためには、「将来、自分はこうなりたい」という明確な目標を持つことが大切だ。

とはいえ、目標というものは一足飛びにたどり着けるものではないし、いきなり大きな仕事はできない。目標達成のために何が必要で、それには何をしなければいけないのかを考え、それらをひとつひとつ積み重ねていくことで、少しずつ近づいていくものなのである。

たとえ天才的な才能を持って生まれたとしても、こうした過程を経てきたからこそいまの彼があり、結果がある。それは間違いない。

大谷がプロ入りしたとき、私は彼の二刀流挑戦を評していったものだ。

「プロ野球をなめるな」

常識的に、二刀流というのは無理だと思った。プロはそんなに甘くない。だから最初は反対したのである。しかし、2016年の日本ハムでの大活躍を見て考えを変えた。「おれが監督でも(二刀流を)やらせたくなるわ」、正直にそう思った。

当初はどちらも中途半端に終わり、才能を浪費してしまうのを心配したが、いまは違う。

将来、大谷はどうなっているか。それがわかるころにはもう私はいないだろう。だから終わった人間のいうことなんてどうだっていい。常識外の二刀流? けっこうなことじゃないか。不滅の記録をつくればいいんだよ。チャレンジは若さの特権なのだから。