山本真司●山本真司事務所代表。1958年生まれ。慶応大学卒、シカゴ大学経営大学院修了。東京銀行、ボストン・コンサルティング、ベイン・アンド・カンパニーなどを経てコンサルタントとして独立。著書に『20代 仕事筋の鍛え方』など。

今の20代は、会社に入るとトレーニングもそこそこに、すぐに即戦力となることを要求されがちだ。実際、自立心も旺盛で、勉強熱心な若手も多い。いわゆるスキルの習得のみに精を出す人もいるようだが、それはちょっと待てと言いたい。

人が仕事で思う存分采配をふるえるのは、多くの場合40代からである。日本はもちろん、実力主義のアメリカでも同じで、30代以下の経営者というのは実は多くない。40代といえば20代にとって20年も先。世の中がどう変わるかは予測不可能で、今、最新のスキルもその頃には色褪せている可能性が高い。

私は20代で英語もろくに話せないまま米国にMBA留学したが、バブルだった当時、日本人留学生が急増していた。おそらく数年後には、日本でもMBAホルダーが珍しくない時代がくると思った私は、とりあえずトップで卒業することを目標に掲げることにした。何か「差別化」しなければその後が厳しいと判断してのことである。幸い、企業派遣で就職活動をしなくてよかったため、時間はたっぷりあった。 人脈づくりもせず、夏休みも同級生が旅行に出かける中、一人家で論文を書いていた。結果、語学のハンディを乗り越え、トップで卒業することができた。

それからである。何でも120%の力でやれば乗り越えられると思えるようになり、新しいこと、わからないものが怖くなくなったのだ。今でも何か新しいことを手がける際には、しばらくの間、人付き合いも断って集中することにしている。そうすれば大抵のことは習得できる。

しかし、この極端な猛勉強がたたってか、卒業後、心のバランスを崩してしまった。帰国しても、戻った職場で思ったような仕事を任されなかったこともあり、なかなか回復しない。そのとき行き着いたのが、「やるだけやったのだから仕方ない」という達観である。そして一晩寝たら、すっかり症状が消えていた。

目標に向けて努力する熱意と成功体験は不可欠である。が、限界まで頑張っても思うような結果が出るとは限らない。ゆえに現実をあるがままに受け入れる「受容力」も不可欠なのだ。一見、矛盾する心理だが、この両方を身につけることで成長できる。これはどんな仕事をやるにも普遍的な力であると今も思っている。

お金や人脈はあえて目標にする必要はない。これらは仕事で成果をあげれば自然についてくるものだ。

(構成=石田純子 撮影=永井 浩)