生活雑貨店「無印良品」では、店舗のディスプレイや接客などを2000ページに及ぶ「MUJIGRAM」というマニュアルにまとめている。良品計画前会長の松井忠三さんは「マニュアルを作成し、運用するうちに想像以上の効果があった。マニュアルは、仕事の本質に近づくきっかけになる」という――。

※本稿は、松井忠三『無印良品の教え』(角川新書)の一部を再編集したものです。

トロントのダウンタウンにある無印良品
写真=iStock.com/JHVEPhoto
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無印良品のレジ後ろの棚にある2000ページの“マニュアル”

皆さんが無印良品に行く機会があれば、レジの後ろの棚をそっと覗いてみてください。そこに「MUJIGRAM」と書かれたファイルがずらりと並んでいるのが見えるかもしれません。

無印良品の店内のディスプレイも接客も、棚や冷蔵ケースなどの配置や照明の具合も、すべてMUJIGRAMで決められています。無印良品はMUJIGRAMでできているのです。

それとは別に、本部(本社)には、店舗開発部や企画室、経理部などすべての部署の業務をマニュアル化した、業務基準書というマニュアルがあります。

MUJIGRAMは2000ページ分、業務基準書は6000ページ超にも及び、なかには写真やイラスト、図もふんだんに盛り込まれています。

これほどの膨大なマニュアルをつくったのは、前述したように、個人の経験や勘に頼っていた業務を“仕組み化”し、ノウハウとして蓄積させるためです。

仕事で何か問題が発生したとき、その場に上司がいなくても、マニュアルを見れば判断に迷うことなく解決できる。たったこれだけのことでも、現場の実行力が生まれ、生産性は高まるでしょう。

“マニュアル”ではなく“MUJIGRAM”

「無印良品には大量のマニュアルがある」という話を聞き、驚かれた人も多いでしょう。

無印良品の店舗に行ったことがある方ならわかると思いますが、スタッフがお客様に商品を積極的に売り込んだりするわけではなく、決まり切ったセールストークをしているわけでもありません。お客様は、自分のペースで商品を見て回れる雰囲気になっています。

この雰囲気こそ、無印良品を無印良品たらしめている特徴といえます。

ただ、この雰囲気をつくりあげるのは、スタッフ一人ひとりの個性ではありません。MUJIGRAMをもとに店づくりをし、スタッフを教育して、無印良品らしさをつくりあげています。

日本では、マニュアルという言葉にネガティブなイメージがあります。

マニュアルを使うと、決められたこと以外の仕事をできなくなる、受け身の人間を生み出す、と否定的な意見を耳にします。画一的で無味乾燥なロボットを動かすプログラムのようなイメージがあるようです。

しかし、そういう人をつくるのが無印良品の目的ではありません。そこで、マニュアルと言わず、MUJIGRAM、業務基準書と呼ぶことにしました。