味噌造りの会場は近隣の農家。伝統の知恵を借りる。

取材当日は、クラインガルテンの住人20名ほどが近くの農家に出かけ、「味噌造り」を行っていた。蒸し上がった大豆の匂いが漂う庭先で、大豆に麹と塩を混ぜ合わせ、持参したプラスチックのバケツに詰め込んでいく。10月頃には、美味しい自家製味噌が食べられるそうだ。

参加者たちに話を聞いて、驚いた。どの人もクラインガルテンで年間100日から200日を過ごしているのだ。ほとんどの週末と夏休み、正月休みなどを、ここで暮らしていることになる。

普段はサラリーマンの鶴川仁志(47歳)は「週末には必ず来ます。野菜ばかり食べているので3キロやせました。今度は大豆の栽培からやりたいですね」と笑顔で話していた。

2010年で5年目を迎える金刺雅道(73歳)は、薬剤師の資格を活かし地元の薬局で週2日働き「ここでの費用を稼いで」、年間200日以上を過ごしている。

金刺のラウベで、焼酎を使った自家製の「赤カブの酢漬け」に舌鼓を打ちながら話を聞いた。

「来年にはここを出なきゃならないけど、出た人でも近くに土地を借りたりして田舎暮らしをしている者も結構いるしね。何かいい縁があれば、と思ってますよ」

丘の上に立ち並ぶラウベ。

目の前の丹精された畑には、ブロッコリーやカラシ菜が見える。ここでの農的生活が好きで好きでたまらない感じだ。

銀行に長く勤め、今も関連の子会社でサラリーマンをしている宇津木孝雄(60歳)は、妻のはるみ(60歳)と一緒に、年間100日を笠間で過ごしている。まだフルタイムで働いているので、休みの日はほとんど来ている計算だ。

「楽しいですね。ここは眺めもいいでしょ。入居に当選する前に借りていた日帰り農園も、まだやってますよ」

笠間クラインガルテンには、ラウべのほか、50区画の日帰り農園が用意されている。農的生活を始めるに際して、結婚35年という奥さんも「悪いことじゃないし、反対しませんでしたよ」と言う。

暖かい日差しを浴びながら、宇津木は、庭の畑に空いた大きな穴を見ながら「ここの自然薯を掘り出すのは大変だった」と目を細めていた。

(文中敬称略)

※すべて雑誌掲載当時

(永井 浩=撮影)