フェミニストだった談志

「男が勝手に作ってダメにした社会を、直してゆくのは女だろう」。

立川談慶『不器用なまま、踊りきれ。超訳 立川談志』(サンマーク出版)
立川談慶『不器用なまま、踊りきれ。超訳 立川談志』(サンマーク出版)

これも談志を代表する名言の一つでした。

談志はかなりのフェミニストでした。20年以上前ですが、当時前座の分際で結婚した私でした。前座というのは修行期間の身分ゆえ、いわば結婚するのはご法度に近いことです。私はこっそり結婚して、ほとぼりが冷めたら談志にカミさんを紹介しようなどと姑息こそくなことを考えていたのですが、カミさんはとても気丈でした。

「あとで師匠に『なんであの時に言わなかったんだ!』と言われるのは嫌だから、どんなに怒られてもいいから挨拶に行きたい」という彼女の声に押される格好で根津のマンションへ向かいました。夏場のことでした。談志はランニングと短パンで寛いでいたのですが、カミさんの姿を見かけるとすぐ奥の部屋に戻り、ポロシャツを上に着て応対してくれたものです(無論、結婚に関しては「身分をわきまえろ! 馬鹿野郎」と激怒されましたが)。

その後も、カミさんのお礼状への返信には、直筆で「何かあったら力になります」と墨痕鮮やかに印してくれました。

立川談慶『天才論 立川談志の凄み』(PHP新書)
立川談慶『天才論 立川談志の凄み』(PHP新書)

二人のお子さんや御内儀さんからは「パパ」と呼ばれていました。家父長制の延長線上に位置すべき徒弟制度を前提とする落語家としてはとても異例のことだったはずです。

「男にできて女にできないことはない。運転は男のほうがうまいなんてウソこけで、女には経験がないだけだ。大概どこの家も亭主がだらしなくて、カミさんがしっかりしているものだ」とも言っていました。

まさに「LGBT」という言葉の先駆けのような思考を持っていたのです。女性蔑視発言などで窮地に追いやられた森元首相と同世代の人の考え方とはとても思えませんよね。やはり革新的な思考だったのです。だからこそ、「落語は人間の業の肯定だ」という落語への歴史的な定義を施したばかりではなく、それまでの落語のスタイルや存在意義までも変えるような革命をやってのけたのでしょう。

地球と女性を大切に

そんなバランス感覚と先見性があったからこそ、談志からしてみれば、男性が「勝手に作ってダメになった社会」をきちんと立て直してゆくのは女性だろうというのは予言ではなく、「未来への提言」にすら思えて来ます。

以上、まとめて「超訳」すると、もし談志がここにいたのならば、「地球環境を大切にしろよ。人間さえいなけりゃこんないい星はない。そして、もっともっと女性を大事にしろよ。それから談慶のバカの書いた本、買ってやってくれよな」と、優しい言葉を残してくれていたはずです。天才の言葉、いまこそ噛みしめましょう。

「落日」の後は「朝日」です!

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