「究極的には私たちは宇宙の源です」

ザ・シークレット』では、「思考は磁石のようなもので、その思いにはある特定の周波数がある」「あなたは思考を用いて、周波数のある波動を放射している人間放送局のようなものである」「宇宙は特定の周波数であなたと交信している」という説明が行われ、さらにはそのまま「思考は現実化する」という言葉も重要事項として登場します。

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写真=iStock.com/metamorworks
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自己啓発としての主張が、ナポレオン・ヒルの頃からほとんど変わっていないのがわかります。

思考は現実化する』に比べ、『ザ・シークレット』では「詳細な計画を立て、モチベーションを保ってやり遂げる」部分が薄くなっており、「考えていることが現実になる」という、ある種の信仰が前面に出ているため、80年以上前のナポレオン・ヒルよりもむしろニューソートに近い印象を受けます。これがスピリチュアル系で人気の理由かもしれません。

さきほどもの述べたように、『ザ・シークレット』が自己啓発やスピリチュアル界隈に普及させたのが量子力学を持ち出す考え方です。少し引用してみましょう。

宇宙は本質的に思考から発生しました。量子力学や量子宇宙学がこれを確認しています。私たちの周りの物質も凝固した思考から出来ているのです。究極的には私たちは宇宙の源です。(『ザ・シークレット』)

一度でも(自然科学としての)量子力学について勉強したことがある人なら、一見して違和感を持つと思います。量子力学で扱うのは原子や素粒子であり、人間の精神ではないからです。

スピリチュアル系のいびつな科学信仰

ただしここで注意が必要なのは、量子力学が説得に使われるのは、スピリチュアル系の人たちが科学を否定しているのではなく、むしろいびつな科学信仰を持っているためだということです。

たとえば、ニューソートで裏づけに使われたのは聖書でした。「聖書を独自に解釈するとニューソートの主張する内容が読み取れる、したがって正しい」という論理を受け入れられるのであれば、何もわざわざ量子力学を持ち出す必要はありません。最初から聖書を読んでおけばいいのです。

ところが時代が下り、聖書は信じられない、しかし「考え方を変えればすべてうまくいく」という希望を信じたいというニーズがあるときに、それらしいことを言う量子力学が持ち出されるわけです。

「宗教には抵抗がある、科学なら信じられる」からこそ生まれる現象です。しかし、ここで必要とされるのはあくまで希望の裏づけであり、「自然法則を解き明かす実験や理論」ではありません。

したがって、本来の量子力学には目が向けられず、科学側からすると違和感のある解釈が一部の人たちで共有され続けるのです。