東京23区の孤独死の件数は2018(平成30)年で3882人。この10年で2倍近く増えた。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳氏は「孤独死の発見に平均17日かかっています。遺体に損傷や腐敗がある場合、先に火葬を終わらせ、葬儀・告別式は後回しする『骨葬』が増えています。コロナ感染で亡くなった方の増加もあり、この葬送が広がりを見せている」という――。
葬儀が終わり、出棺の準備が整えられる
撮影=鵜飼秀徳
葬儀が終わり、出棺の準備が整えられる

火葬を先にし、葬儀・告別式は後回しにする「骨葬」が増えている

新型コロナ新規感染者は全国的に減る傾向にあるが、葬式が満足に執り行えない状況は依然続いている。そんななか、広がりをみせているのが「骨葬」と呼ばれる葬送だ。

骨葬とは、まず遺体を火葬して焼骨にした上で葬式をすること。一般的な葬式と異なるのは「お見送り」と「火葬」の順番が逆転していることで、それを忌み嫌う地域もある。だが、コロナに感染して亡くなった方や、孤独死の増加などを背景にして骨葬のメリットが再評価されつつある。

とくに多死社会においては合理的な葬送法であり、今後、さらに広がりをみせる可能性がある。

タレントの志村けんさんが2020年3月29日、新型コロナウイルスに罹患して亡くなったのは衝撃的だった(享年70)。志村さんの遺体は病院から火葬場へと直行し、遺骨となって東京都東村山市の実家に戻った。その時、志村さんの兄は報道陣の前で、「本当は盛大に送ってあげたかったのに、こんなことになって悔しい」と語った。その後、近親者だけで葬式が実施された。

翌4月に亡くなった女優の岡江久美子さんも同様で、遺骨になって自宅に戻った後、家族によって弔いが行われた(享年63)。コロナ死における葬式はいまでも骨葬が多い。

骨葬は一見、イレギュラーな弔いのように思える。仏式の葬式における、一般的な流れはこうだ。

医師から死亡宣告を受けた後、遺体安置場所に僧侶がやってきて枕経を唱える。その後、納棺を済ませて通夜を実施し、その翌日に葬儀・告別式を行う。告別式の後に出棺となり、火葬場で遺骨となって自宅へと戻る。

つまり、火葬は一連の儀式が済んだ最終段階という位置づけだ。だから、順序が逆になることで、タブーを犯したと感じる人もいるのだ。遺族にとっては遺骨になって初めて、「葬式の終了」が告げられ、けじめがつけられるということだろう。

こうした日本人の火葬にたいする強いこだわりを知ったのが2011年3月11日の東日本大震災であった。大震災ではおよそ2万人もの方が亡くなった。

被災地の火葬場は地震による停電と、大量の遺体が搬送されてきたことで限界に達した。そのため、2000体近くの遺体が関東や北海道の火葬場で荼毘に付された。最西では岐阜県の火葬場にまで運ばれたケースもあった。

最も多くの犠牲者を出した宮城県では遺体の他県への運搬も滞り、一部がサッカー場や寺の敷地などに仮埋葬されることになった。

だが、地元の人々にとっては、あくまでも仮埋葬(一部の身元不明遺体はそのまま「土葬」されたようだ)としての位置づけであった。地域の火葬場が機能を取り戻すと、2011年のうちに遺体を掘り起こして、火葬した。

土中から掘り出された棺桶は土の重みで崩れ、遺体が泥にまみれ腐敗もかなり進んでいたが、しかし、被災地の遺族はそれでも早期の火葬にこだわったのだ。仮埋葬された後に掘り起こして火葬された遺体は、宮城県内だけで2000体を超える。日本人の「火葬をもって葬式の終結とする」意識を強く感じた次第である。