「支配者の考え以外は正しくない」という価値観の浸透

文化大革命の影響の詳細は不明だが、中国の経済と社会には非常に大きな損失が発生した。最大の問題点は、毛沢東一個人の考えが正しい、それ以外は正しくない、という価値観が社会全体に浸透したことだ。別の言い方をすれば、文化大革命は十数億人の中国の国民が根源的に持つ新しい考えや行動様式を目指す意思を徹底してそぎ落とした。

文化大革命後、鄧小平は経済成長を実現しなければ共産党の支配体制を維持できなくなると危機感を強めた。1978年からは“改革開放”が進み、経済特区の設置によって海外企業が誘致され、鉄鋼など重厚長大分野で国有・国営企業への技術移転が進んだ。

中国・北京の風景
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その一方で国有・国営企業の事業範囲外の分野(例えば情報通信産業)では民間企業が誕生した。それが、今日のアリババなどIT先端企業の急速な成長を支えた。過去40年間の中国経済の高成長は改革開放に支えられた。特に、リーマンショック後の中国経済の成長は民間IT先端企業の急成長に負うところが大きい。

貧富の格差は「社会騒乱が起きる」寸前

中国共産党政権は、社会統制の強化によって共産党による一党独裁体制を守ろうとしてきた。鄧小平は改革開放は進めたが、民主化は一切認めなかった。鄧小平が改革開放によって目指したことは、共産党指導部の指揮によって高い経済成長率が達成され、全国民がそのおこぼれとしての所得増加を実感することだった。その状況が続くことが共産党の求心力を支え、支配体制の維持につながる。鄧小平以降の共産党トップもその考えを踏襲した。

その結果、共産党幹部と民間IT先端企業などの創業経営者という2つの富裕層に富が偏在し、貧富の格差が拡大している。0から1の間で所得の格差を示すジニ係数に関して、0.6を超えていると指摘する中国経済の専門家は少なくない。ジニ係数は0.4を超えると社会騒乱の懸念が高まるといわれている。

共産党政権は貧富の格差の拡大による社会心理の悪化を避けるために、民間企業創業者への締め付けを強めている。その一方で、習氏が権力を維持するために、党の幹部にまで綱紀粛正の手を本格的に広げることはできない。