もっと幅広い普通の人に出会いたいと思った

——「ほぼ日の學校」は月額680円です。リーズナブルな価格設定も、間口を広くするためですか。

【糸井】まさしくその通りです。いまの時代、すてきなサークルを作れば、人はある程度は入ってくるし、それなりの市場もできるんです。でも、そうじゃないところに行きたいじゃないですか。

ほぼ日が青山からに神田に引っ越してきたのも無関係じゃないです。青山でショーウインドーを見ていたら、世界中で一番服を買える人たちが何を買うのかはわかるわけです。それを見て「このへんにダサくないものがかたまっているな」とわかれば、そこに通う人たちも何か自分の誇りみたいなものが保てるところがある。それが大事だった時期もありました。

ほぼ日社長の糸井重里さん
撮影=西田香織

でも、もっと幅広い普通の人に出会いたいと思ったから、神田にやってきたんです。この新事業と引っ越しは、ほとんど一つのものといっていいんじゃないかな。

僕らが青山で仕事をする必然性はなくなった

——青山には「最先端のものがそろっている」というイメージがあります。神田は糸井さんにとって、どのような場所なのですか。

【糸井】圧倒的に面白い。人が普通に考えることを考えますよね。つまり青山だったら、「これは家賃に見合った売り上げになるか」と考える。でもそれって、普通に考えることじゃないんですよ。「ゆっくりできた」とか「コーヒーがおいしかった」というのとは違う。家賃のためには、お客の回転が早いほうがいいんですよね。青山だとどうしてもそういう発想になる。

一方、神田の商店主は昔からのオーナーで地主であることが多いんです。だから、「経営的に間違っているよ」と言われてもね。「こうしたほうが喜んでくれる」「ゆっくりしてもらおうよ」ができる。「これで儲かるのかな?」と不思議に思えるようなお店が多いんですが、その結果、すごく面白い街になっていると思います。

それに神田に全部なくてもいいはずなんですよね。みんな自宅があるから。神田から神田に通っている人はほとんどいない。お店の人も。だからその意味では、それぞれに自分が暮らしている場所も大事にしたいし、昼間いる場所も大事にしたい。そうやって、言ってみれば2カ所、楽しいことがあるのが一番今に合っていると思う。

青山に住んでいる人はほとんどいない。スーパーマーケットはどんどんなくなっているし。青山は商いをする場所、あるいはショーウインドーを作る場所。だから僕らみたいな仕事であそこにいるという必然性はなくなったんだと思います。(後編に続く)

(構成=村上 敬)
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