打算のヨイショは有能な人ほど見抜く

<strong>落語家 立川志らく</strong>●1963年生まれ。85年日大芸術学部在学中に5代目立川談志に入門。95年真打ち。映画、舞台でも活躍。
落語家 立川志らく●1963年生まれ。85年日大芸術学部在学中に5代目立川談志に入門。95年真打ち。映画、舞台でも活躍。

落語界では師匠から可愛がられることを「はまる」と言います。わが立川談志一門ではどんなにはまった弟子でも、最初のうちは「自分は師匠から嫌われてるのでは」と思うんです。

なぜなら入門したばかりの弟子は師匠のことをよく知っていますが、師匠は弟子のことを何も知りません。結局、情報量が違いすぎるから様子を見ているんですね。でもそれがわからないから「これだけ好きなのに嫌われてる……」とマイナス思考に陥ってしまう。さらに些細なことで怒られるので負の感情が増幅していく。どこかでプラス思考に転じないと、信頼を勝ち取ることはおろか、師匠はいつまでも怖い存在のままで終わってしまいます。

私は周りから「師匠にはまってる」と言われてきました。時には「師匠の好きなものに追随するヨイショ野郎だ」と陰口を叩かれることもあったけれど、別にヨイショしたわけじゃない。なぜはまったかといえば、まずは入門して、師匠のありとあらゆるものを吸収しようと思ったわけです。師匠の家に置いてあるビデオや本を片っ端から見ていくうちに、いろいろな話題に合わせられるようになりました。そういう積み重ねがあって、「こいつはオレと価値観が近いな」と感じてくれるようになったと思うんですよ。「同じものが好き」というのは、師弟の関係を超えて嬉しいものですから。