無観客開催はどんな影響があるのか?

当然だが、無観客開催になれば、不要になるものが出てくる。まずはハード面。観客入りを想定して造られた仮設スタンドはほとんど使われることなく撤去される。結果として無駄な経費になるだろう。それからチケット収入で計上していた約900億円が消滅。赤字分は都や国が税金から補塡ほてんすることになる。金銭面での損失は計り知れない。

選手の立場はどうなのか。試合に向かうモチベーション自体は変わらないとはいえ、声援の有無はパフォーマンスに影響する。観客に応援されることで選手の運動量が約20%アップしたという調査も報告されている(※)。特に沿道で行われるマラソンは観衆との距離が近いこともあり、声援が耳に届く。それがエネルギーになるだけに、今回は“孤独な戦い”になるかもしれない。

観客に応援されることで選手の運動量が約20%アップ!!大勢に注目されることが選手のパフォーマンス向上に影響することを検証した動画を公開

また、集まる人数が多いほど熱狂の渦も大きくなる。「火事場の馬鹿力」のような驚異的なパフォーマンスは非日常の雰囲気から生まれるもの。無観客ではそういうシーンが観られる機会が激減するだろう。ホームアドバンテージを得られないのだ。

無観客になると、東京五輪2020のレガシー(遺産)を次世代に引き継ぐことも難しい。選手、ボランティア、大会関係者以外は、東京五輪を“体感”することができないからだ。

ドイツ・ミュンヘンのサッカースタジアムの座席
写真=iStock.com/sebastian-julian
※写真はイメージです

筆者は、延べ76万人の観客を動員した2017年ロンドン世界陸上を取材したときに、観客の“パワー”を思い知らされた。決勝種目が行われたイブニングセッションは7万人もの観衆がアスリートたちを応援。プレス席だったが、その雰囲気に圧倒された。地元・英国の選手が活躍すると、スタンドからすさまじい拍手が巻き起こる。3年後、新国立競技場で多くの日本人が同じような体験ができると想像しただけでワクワクしたものだ。その希望は幻に終わろうとしている。

サッカー、野球、テニス、ゴルフなど一部の種目を除けば、オリンピックがその競技種目にとって真のナンバー1を決める最高の舞台になる。多くの種目(団体)はオリンピックで競技の魅力を観客にPRしたいと考えていたはずだが、その願いはかなわない。東京五輪を生観戦できないことは、今後のスポーツ界にも大きな影響が出るだろう。

また無観客になることで、10万人に依頼していたボランティアの一部は出番がなくなってしまう。SNSの発展で情報を共有できても、体験をシェアすることはできない。東京五輪の無観客は一般の方々が一生に一度できるかどうかという貴重な体験の場が奪われたことになる。

「人はパンのみに生きるにあらず」いつか無観客開催を後悔する日

イエス・キリストは「人はパンのみに生きるにあらず」という言葉を残している。やりたいことをやるからこそ人生。人間が生きていくためには、安全安心に命を守る環境も大事だが、それと同様に精神的満足・充実を得ることも必要だ。東京五輪を観戦したい、と熱望している人は少なくなかった。

そもそも東京(日本)が開催地に立候補したわけで、世界中から開催を押し付けられたわけではない。「お・も・て・な・し」という言葉で誘致に成功したはずだが、その精神はどこかに消えてしまったようだ。

菅義偉首相は東京五輪に関して、「全人類の努力と英知で難局を乗り越えていけることを東京から発信したい。安心安全な大会を成功させ、歴史に残る大会を実現したい」と話している。

東京五輪を無観客にすることで出る“損失”を穴埋めできるような“成果”を獲得できるのだろうか。東京五輪には日本スポーツ界の未来がかかっている。それは私たちの子供や孫に関わる重要な問題だ。無観客開催を後悔する日がこないことを祈るばかりだ。

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