なぜ高級フレンチには「大盛り」がないのか。小売りコンサルタントのダグ・スティーブンスさんは「料理の盛りが小さいのは、食材を減らして儲けを増やすためではない。そこには顧客の満足度を高めるための工夫がある」という――。

※本稿は、ダグ・スティーブンス・著、斎藤栄一郎・訳『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

高級ステーキに手づくりソースをかけるシェフ
写真=iStock.com/ClaudioValdes
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売れる店、うまい店は知っている「顧客体験」の重要性

「顧客の体験」というコンセプトを語るとき、「旗艦店」ありきの発想はもう終わりにしたい。これにはいくつか理由がある。

第1に、私の経験上、旗艦店は社内的に、やりたい放題の手に負えない子供のような存在になりがちなのだ。店舗全体の運営を担うチームにしてみれば、こうした旗艦店は、往々にしてマーケティング上、不必要な存在である。

軽薄でカネ食い虫で見掛け倒しと見られていることも少なくない。業務の面からは「実店舗」とは言い難い存在なのである。

逆に、マーケティング関係者は、旗艦店を店舗運営の領域と見ていて、体験を構成する美的な部分や贅沢な部分に息を吹き込むのが旗艦店だと考えている。旗艦店が力を発揮できず、期待に応えられなければ、たびたび責任のなすり合いに発展する。全員に責任があるからこそ、誰も責任を負わないのだ。

第2の問題は、旗艦店には独自性があるにもかかわらず、通常の店舗の財務実績を測る際に使う従来の基準で旗艦店も測られることが多いという点だ。むろん、一般に旗艦店の売上高販管費率は、従来型店舗よりはるかに高いことも問題である。

何よりも、純粋に実益の面から言えば、なぜブランド各社は「旗艦店をつくる」という、通常店舗がかすんで見えるようなことをあえてするのだろうか。

顧客の体験は、特定の店舗や地域でしか手に入らないようなノベルティグッズではいけない。旗艦店に限らず、顧客との接点になるありとあらゆる場に広く行き渡るべきである。突き詰めれば、すべての店舗がいわば旗艦店でなければならないはずだ。