日本屈指の歓楽街、新宿・歌舞伎町。朝まで眠らないその町に、世間とはほぼ正反対の時間帯に営業する「深夜薬局」がある。店主のもとには、夜の街で働く人々がさまざまな相談を持ちかけてくる。その内容とは――。(後編/全2回)

※本稿は、福田智弘『深夜薬局』(小学館集英社プロダクション)の一部を再編集したものです。

東京の輝く街並みを見つめる若い女性
写真=iStock.com/maruco
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「AVに行こうかな」と薬剤師につぶやく性風俗店の女性

前編から続く)

基本的に中沢さんは「聴き役」だ。アドバイスを求められれば、適切なひと言を語るが、そうでなければ、自分からなにかを忠告したり、ましてやお説教のようなことを言ったりはしない。

あくまで基本的には……である。

2020年4月、新型コロナウイルスの流行にともなって東京都が緊急事態宣言を出したとき、歌舞伎町の性風俗店ではたらいていた若い女性がニュクス薬局にやって来た。

「お店も自粛をはじめて、仕事がなくなっちゃったんだよね」

全国的に「自粛」が叫ばれ、夜の街から人通りがなくなったあのとき。ましてや、「濃厚接触」をともなう性風俗店の仕事がめっきり減るのは、想像に難くない。そこで彼女は、新しい道に進もうかと、中沢さんに相談を持ち掛けた。

「AVに行こうかな」

基本的に中沢さんは、自分からアドバイスや意見を言うことはしない。しかしそのときは、はっきりと自分の思いを伝えたという。

「いまは仕事がなくて大変なのはわかる。けど、AVとして形に残ってしまうのはあまりよろしくないと思うよ」

職業に貴賤はない。それでも、偏見はある。世の中から偏見をなくしていくことはもちろん我々みんなが努めなければならないことだけれど、中沢さんが言っているのは「現実」の話で、起こる可能性の高い「近い将来」の話だ。

もちろんそういった仕事に理解のある男性もいる。けれど、理解のないひとがいるのも現実だ。