ノルマがなくても、従業員は誰一人サボらない

そういうわけで、飯田屋にノルマはありません。

「ノルマがなければ、人はサボる」と、親切に僕に教えてくれた方がいました。いいえ、飯田屋の従業員は誰一人サボりません。

売上の数字で縛らなくても、目の前のお客様を大切にすれば繁盛は訪れます。この「目の前のお客様を大切にする」という“当たり前”は、文字どおりの意味ばかりでなく、一緒に働く従業員を誰よりも信頼するという僕の決意でもあるのです。

ですから、飯田屋にはノルマばかりか「売上目標」もなければ、「飛び込み営業」も行いません。数字に追いかけ回される経営をすべてやめ、「3ない営業」に徹しています。

「個人のノルマをなくすのはわかったけれど、会社としての経営目標はあるでしょう?」という質問をよくされます。それも答えは「ありません」です。

経営目標があったら、従業員を数字で判断してしまうかもしれないからです。それでは意味がありません。決めたからには、どこまでも徹底的に行うことが肝心です。

「3ない営業」で売上と満足度が上がっているのは事実

もちろん、以前は多くの企業と同じように売上目標があり、飛び込み営業もしていました。この業界では、飛び込み営業による外売りが売上の大半を占める会社が少なくありません。飯田屋でも店にお客様が来なかったころ、飛び込み営業専門の営業会社にしたらどうかと考えたときもありました。

外売りで選ばれるためには、圧倒的な安さが必要です。「もっと、いいものないの?」の問いは「もっと、安いものないの?」を意味していました。商品の品質よりも、安さを求められるお客様が多いのです。

飯田屋では数字の管理をなくし、「売るな」の営業方針を決めたときから、安さだけで勝負をする商売から卒業しました。今では外売りは0%です。

その代わり、お客様にわざわざ飯田屋まで買いに行きたいと思ってもらえるような品揃えと、お客様に寄り添った接客に努めています。安さで選んでもらうのではなく、飯田屋でなければ味わえない体験でお客様を惹きつけるためです。

飯田屋ならではの体験で顧客を惹きつける
撮影=小林久井
飯田屋ならではの体験で顧客を惹きつける

一般的に、企業経営には数値計画に基づいた事業計画が不可欠とされます。飯田屋ではそれらを一切なくしたのですから「無謀な経営」と言われても仕方ありません。「計画性がない」「改善点が明確化されない」「利益の分配が計れない」などと揶揄やゆもされます。

しかし、「3ない営業」によって売上とお客様の満足度が上がっているのは、まぎれもない事実です。今の僕たちには最適な営業方針なのです。