場所は近所の薬局、スタッフはボランティア

NHSからの案内状には「高齢者のためのコロナワクチン接種ガイド」という12ページの冊子も同封されていた。書いてあるのはごく基本的なことで、接種をすると、腕の痛み、倦怠感、頭痛、インフルエンザ類似の症状といった副反応が起きる人もいるという。飲酒に関する制限はないが、副反応が出たとき、酒で身体が弱っていたりするとまずいので、筆者は2日前から禁酒した。

当日、家から歩いて7分くらいの薬局に出向いた。普段何気なく通り過ぎている小さな薬局で、こんなところも接種場所になっているのかと驚いた。3、4人が並んでいて、ボランティアと思しい中年女性が名前や生年月日を確かめていた。数分で店内に入ることができ、入り口のそばの受付デスクで、やはりボランティアと思しい高齢の婦人に名前などを確認され、その後、別の高齢の婦人に「ここで待って、次の人が出てきたら、2つある部屋の一つに入ってください」と言われる。

貴重なワクチンを余さず使うスピード感

感心するのは、数多くのボランティアが接種会場で働いていることだ。イングランドでは、総勢約10万人のボランティアが動員されており、日本人も少なからずいる。受付、会場整理、データ入力、医師や看護師のサポートだけでなく、注射打ちのボランティアもいる。

英国では法律を改正し、素人でもワクチン注射が打てるようにした。ワクチンの取り扱い方法や応急措置などに関して10時間のオンライン学習、丸一日の実技研修、試験を経て、実際の接種に当たらせている。イングランドでは注射のボランティアだけで3万人超の応募があったという。英国は専門資格にこだわらず、「素人でもやれることなら、やらせたらいいじゃない」という融通無碍な文化があり、筆者も以前、2~3カ月間、人に注射を打ったことがある。

英国のワクチン接種ガイド
筆者撮影
英国のワクチン接種ガイド

もう一つ感心するのは、薬を無駄にしないようにしていることだ。例えばファイザーのワクチンは、マイナス75度程度の超低温から通常冷蔵(2~8度)にした場合は、5日以内に使いきらないといけない。英国では、予約に来なかった人が出ると、すぐに別の人に連絡し、接種を勧めている。筆者の日本人の友人も、携帯にいきなりテキストメッセージが送られてきて「今日の夕方か、明日の午前中、接種に来られないか?」と聞かれたので、面食らったという。

また、政府がワクチンを前倒しで病院や接種場所に送りつけ、担当者が必死でそれを消化するという状況もあるようで、接種プロジェクトを一日も早く進めようという政府の執念が垣間見える。