——慧眼ですね。日本では二大政党制を目指し、1996年に小選挙区比例代表制が取り入れられましたが、いまだ実現していません。

講義も面白かったですが、政治学にかかわるならどんな研究をしてもいいという。その先生なら私の野望を理解してくれるだろう、と「小説で政権をひっくり返す」というテーマで論文を書きました。

——楽しそうな論文ですね(笑)。

『ロッキード』を出した小説家の真山仁さん(撮影=プレジデントオンライン編集部)
ロッキード』を出した小説家の真山仁さん(撮影=プレジデントオンライン編集部)

自民党をどう倒すか。私なりに説得力があると思われる論文を書いたのですが「想像力と発想はいいけど、根拠に乏しく、妄想の域を出ていない」と60点の評価でした。

同志社大で、ひとつの出会いがありました。『ロッキード』でも取材させていただいた広瀬道貞さんです。テレビ朝日の社長や会長を歴任した広瀬さんは、当時、朝日新聞記者で、「補助金と政権党」という講義を受け持っていました。

30年ぶりに会って話を聞くと広瀬さんは「福島の災害復興だって、田中角栄のような人物がいれば、最優先すべきものを判断して、現場にもっとカネを入れて集中的な事業を展開していたと思うなぁ」とおっしゃっていた。

実は30年前、広瀬さんは、角栄に対しては非常に批判的だった。私が「昔はあんなに角栄を嫌っていたじゃないですか」と聞くと広瀬さんは「角栄のスゴさが分からなかった記者時代は未熟だった」と答えた。

夢は変わらず、死ぬまで小説を書き続けたい

——「小説で世の中を変える」という夢はいまもお持ちなんですか?

もちろんです。去年ドラマ化された『オペレーションZ』は特にその思いが強かった。

——国債が暴落し、国家予算を半減する必要に迫られて、社会保障をすべてカットするという物語でしたね。

連載の時から書き方に迷いがあり、単行本化の際大幅に加筆修正しました。試行錯誤する過程で気付いたんです。声高に訴えても読者には届かない、と。

真山 仁『ロッキード』(文藝春秋)
真山 仁『ロッキード』(文藝春秋)

先日、スパイ小説で有名なイギリス人作家のジョン・ル・カレが亡くなりました。彼はとても難解な小説を書くので有名だった。1冊、読破しただけで自慢できるほど難しかったのです。

でも70代に入り、どんどん物語がわかりやすくなっていった。物語でグローバリゼーションのおかしさを指摘し、若者に期待するようになった。驚いたのは、高齢にもかかわらず、恋愛を含めた若者たちの姿をとても巧みに描くこと。私は、ル・カレは晩年になり、読者に物語を届けようとしはじめたと感じました。

私もテーマを大上段に振りかざすのではなく、ル・カレのように、もっとソフトにわかりやすく、面白い物語を届けたいと考えるようになりました。物語がたくさんの読者に届けば、小説で社会を変えられる。私は、そんな思いで、小説を死ぬまで書き続けていきたいと考えています。

(聞き手・構成=山川徹)
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