ロッキード』の執筆にあたってロッキード事件を調べ直し、いま裁判をすれば、無罪が出る可能性は十分にあるという手応えを感じました。

受託収賄罪での起訴も冷静に考えれば無理があります。その上、物証もない。検察側の証人も、みな自白を強要されていた。にもかかわらず、角栄は有罪判決を受けた。『ロッキード』ではこの点も丁寧に検証し、詳述しています。

ノンフィクションに挑んで見えた田中の人物像

——田中角栄について長期間、取材した結果、人物像に変化はありましたか?

変化、というよりも田中角栄という人間の濃淡、コントラストが見えてきました。角栄が吃音きつおんだったという話はよく知られています。

『ロッキード』を出した小説家の真山仁さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
ロッキード』を出した小説家の真山仁さん

実は、私も子どもの頃、吃音に悩まされていました。いまも疲れがたまると出てしまう。親からは目の前の人をニンジンやダイコンだと思って話しなさいと言われてきた。でも、実際、人を野菜と思えるわけがない。

真山 仁『ロッキード』(文藝春秋)
真山 仁『ロッキード』(文藝春秋)

話す、という誰もができる普通のことができない。私の人生にとっては大きなコンプレックスだった。

角栄は頭の回転がとても早かった。少年のうちは、話したくてもうまく話せなくて、周囲にバカにされてきた。だから大人になっても角栄には打たれ強さと、もろさが同居した。

もうひとつ吃音の人の特徴が、話す前に入念に準備すること。角栄が雄弁に立て板に水のごとくに演説できたのは、吃音を防ぐため、準備を怠らなかったからです。その代わり、不意打ちには弱い。吃音というポイントで角栄を見つめ直したときに、これまで知らなかった角栄の人間らしさが浮かび上がってきたのです。

(聞き手・構成=山川徹)
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