そこで、腰回りを隠すためのアイテムが必要になったのだ。モンベルでは彼女の要望を聞き入れ、自転車用のスカートを作った。そしてその1年後、これを応用した山用のトレッキング・スカートを開発し、販売し始めたのだ。

しかし、発売当初は火がつかず、売れ行きもぼちぼちといった状態だった。

女性の登山人口が今ほど多くなかったうえ、非常識なファッションだったからだ。ところが、08年から富士登山ブームが起こり、09年6月に女性向けのアウトドア専門誌「ランドネ」が発刊されるや山スカートの売り上げが伸び始めた。そして、2010年になって売り上げは急増。本年3~8月期で、前年同期比約200%増を記録する大ヒットになった。

今、「山ガール」という言葉が一般化している。山歩きをする若い女性が増えているからだ。なぜ、現代女性は「山」に魅せられるのだろうか。山スカートのヒットの根本的な理由を考えてみたい。

現象面では、外に向かって主体的に行動するアウトドア派の女性が増えたことが挙げられる。知的好奇心が強く、一人で、あるいは今流行りの女子会などを通じて積極的に自然に親しむ女性たちが増えているのだ。

そして、彼女たちをアウトドアへと誘う根本理由は、閉塞感漂う現代社会にある。職場で、学校で、家庭で、彼女たちは日々、ストレスのたまる環境に取り巻かれ、常に新たなはけ口を模索している。「癒し」を求めているのだ。

メンタル面の癒しを得るうえで、山はうってつけの対象だ。もちろん、登山は疲労やリスクを伴うものだが、頂上に到達すれば、日常生活では得られない爽快な達成感を得ることができる。眼下の眺望は美しく、空気も澄み渡っていて、心の底まで洗われる気分に浸れる。まさに浮世の憂さを晴らすことができるのだ。

このような山の持つ魅力から、今日の「山ガール」の出現を30年も前から予言していた人がいる。モンベル代表取締役会長兼CEOの辰野勇氏だ。

「山は、心が癒され、空気がきれい、眺めも美しい。心が落ち着くのは当たり前です。こんな素晴らしいところに行かないのがおかしいんです。ボクが(30年前に)言ったとおり、今、若い人たち、特に女性が山に戻ってきました」と、筆者の問いかけに同氏はにこやかな笑顔を見せた。