海外投資家が日本株に資金を振り向け始めた理由

11月25日、日経平均株価は2万6296円で終了した。この水準は、およそ29年ぶりの株高レベルだ。世界の主要投資家は、低金利環境の継続や、複数の新型コロナウイルスワクチンへの期待を高め、より積極的にリスクをとっている。それが、日経平均株価を29年ぶりの水準に押し上げた主な要因だ。

上昇した日経平均株価を示す電光ボード=2020年11月25日午前、東京都中央区 
写真=時事通信フォト
上昇した日経平均株価を示す電光ボード=2020年11月25日午前、東京都中央区

コロナワクチン開発への期待は、経済の正常化への思惑を通して株式市場の様相を少しずつ変えつつある。というのも、それまで上昇の中心だった米GAFAMなどのIT先端企業から、コロナショックに直撃された株価が低迷気味だった銘柄に注目が徐々に移り始めている。

そうした投資家の投資銘柄の変化は、産業へのセクター・ローテーション(資金の振り向け)と呼ばれる。その流れを受けて、海外投資家は出遅れ感が目立った日本株に資金を振り向け始めているようだ。今後の展開を考えた時、もう少し、わが国をはじめ世界的な株高環境は続く可能性がある。なぜなら、FRB(米連邦準備理事会)などの主要中銀が金融緩和を重視しているからだ。

ただ、いつまでも株価が上昇し続けることはない。欧米では感染の再拡大によって景気回復ペースが鈍化し始めた。いつ、どのような効果のあるワクチンが世界全体に供給されるかも不透明だ。そうした不確定要素が世界の株式市場にどう影響するかは冷静に考えなければならない。

世界的な株高の影響で、主要国の株価は軒並み高値圏にある。一部には既にバブルの域との指摘もある。冷静さを忘れてはならない。

有力ITプラットフォーマー不在で景気回復が鈍化

わが国の株価は海外投資家の行動に大きく影響される。11月第2週の売買合計金額を見ると、東京証券取引所の第一部に上場する株式の7割、日経225先物の87%が海外投資家だ(ともに委託取引に占める割合)。事実上、海外投資家が日本株を買えば、わが国の株価は上昇する。反対に、彼らが売れば株価は下げる。

海外投資家にとって、日本株は“世界の景気敏感株(世界経済の動向を敏感に反映する株)”だ。わが国では、人口の減少と少子化、高齢化が3つ同時に進み、経済は縮小均衡に向かっている。そのため、相対的に成長期待の高いアジア新興国などに進出して業績拡大を目指す企業が増え、米中など海外の景気動向やドル/円などの為替レートの変動が企業業績に与える度合いが増した。

国際協力銀行が実施した『わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告』によると、2002年度に27.9%だったわが国製造業の海外売上高比率は、2018年度に38.7%に達した。非製造業の分野でも、海外経済の影響は増大傾向にある。中国をはじめとする外国人観光客の増加は、飲食や宿泊、百貨店、航空、陸運などのセクターに追い風となった。

海外の要素に依存して持ち直したわが国経済にとって、新型コロナウイルスが与えた影響はあまりに大きかった。3月下旬以降の米株式市場では、カネ余り環境が鮮明となる中で、アマゾンなど有力ITプラットフォーマーの業績拡大や経済のデジタル化の加速によるIT先端企業の成長期待が高まり、米ナスダック総合指数を中心に株価は大きく上昇した。米GAFAMなどは成長期待の高い“グロース株”の典型例だ。

一方、わが国経済には有力ITプラットフォーマーが見当たらず、機械や自動車などが経済を支えている。世界的な移動制限によって、インバウンド需要も消滅した。その状況下、わが国の景気回復には米中以上の時間がかかる。そうした見方に基づいて、世界の主要投資家は日経225先物などを売りに回った。それが、日本株の戻りの鈍さの原因だった。