いま問われているのは分断を生んだアメリカの政治

朝日社説は「人々を動かしているのは、黒人であるというだけの理由で警官が暴力をふるう事件が相次ぐ現実を、黙って見ているわけにはいかないという思いだ。それがうねりとなり、人種や世代を超えて広がっている。『スポーツ選手はただプレーしていればいい』といった一部の反応は、この本質をみていない」とも指摘し、「問われているのは人権の問題だ。まさに一人の人間として、アスリートが不正義に声をあげる行為を、封じることはできないし、封じるべきではない」と訴える。

朝日社説は大坂のマスクを人権問題に結び付けようとしているが、安易ではないか。沙鴎一歩はそんな朝日社説の論法が気になる。何かと言うと、人権を持ち出すのが朝日社説のよくないところである。

いま問われているのは分断を生んだアメリカの政治だ。分断の連鎖を断ち切ることができれば、人種差別も消えていく。分断をなくすことができるかどうかが、2カ月後の大統領選にかかっている。

産経社説はストレートな見出しに比べて書き出しが分かり難い

次に9月16日付の産経新聞の社説(主張)を読んでみよう。

産経社説は前半で「途中で敗退すれば、全てを披露することはできなかった」と指摘し、「自ら課した動機付けを成就させた快挙である。見事というほかはない。スポンサーを失う恐怖もあったという。プレッシャーも大きかったろう。これを勇気と成長が克服させた。もちろん背景には、力と技術の裏付けがあった」と大坂なおみの行動を評価する。見出しも「大坂なおみ 快挙と勇気を称賛したい」とストレートで分かりやすい。

問題は書き出しである。

「モチベーションという言葉はスポーツ界が定着させた。単に『やる気』といった意味にも使われるが、本来の訳は『動機付け』である」

いきなり「モチベーション」という言葉の解説で始まり、読者はその唐突さに戸惑うだろう。なぜこの産経社説を書いた論説委員はこんな書き出しにしたのか。「自ら課した動機付けを成就させた快挙である」と「動機付け」を前面に押し出したかったのだろう。それにしても分かり難い書き出しだ。

いつもの産経社説らしい力強さ、説得力のある主張がない

産経社説は指摘する。

「大坂はツイッターに『祖先に感謝したい。彼らから受け継いだ血が体中を巡り、負けるわけにはいかないと思い起こさせてくれたので』とつづった。それはハイチ出身の黒人の父、日本人の母、北方領土出身の祖父の血だ」
「自らのルーツに関わる怒りだけに周囲の共感を呼んだ」

産経社説のこの指摘のように、受け継いだ血に関わる人種差別の問題だけに多くの人々の心を揺り動かしたのである。

産経社説はこうも指摘する。

「差別への反対は普遍的な人権行動でもある。政治的、宗教的な主張・宣伝を禁じてきた大会主催者も、今大会では特例として大坂の行動を認めた」

「普遍的な人権行動」。15日付で1日早く書いた朝日社説を読んで、引きずられたのだと思う。これまで産経社説は「人権問題」を真正面から取り上げるようなことは少なく、これも唐突な印象を覚える。

産経社説は「アスリートは競技のみに集中して余計なことをいうな、といった批判は誤りである。選手にも、堂々と意見を述べる自由や権利がある」との指摘も、朝日社説の「『スポーツ選手はただプレーしていればいい』といった一部の反応は、この本質をみていない」に引きずられている。

いつもの産経社説らしい力強さ、説得力のある主張がない。残念な産経社説だった。

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