「私はメッセージを運ぶ器みたいなもの」

全国紙の中で大阪なおみのマスクを最初に社説で取り上げたのが、9月15日付の朝日新聞だった。

朝日社説は書き出しで「社会が抱える問題にひるまず立ち向かう姿勢と、重圧に屈しないアスリートとしての成長。その双方を示した偉業だ」と高く評価し、こう指摘する。

「米国で構造的な人種差別に抗議する『ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大切だ)』運動が続くなか、大坂選手は犠牲者たちに静かに寄り添いながらゲームに臨んだ」
「決勝まで7試合。警官による暴力で亡くなった7人の氏名を書いた7枚のマスクを用意し、勝ち上がるごとに披露していった。『私は人々に気づきを広げるために、メッセージを運ぶ器みたいなもの』と語った」

「双方を示した偉業」と評価し、「メッセージを運ぶ器」という大坂の言葉を取り上げるところなど実にうまい書き方である。

だが、「大坂なおみ選手 ボールは私たちの側に」という見出しはよく分からない。社会正義の実現をテニスの試合に重ね合わせたのかもしれないが、見出しは一目で分かることが重要だ。朝日社説らしいと言えばそれまでだが、斜に構えているようなところが鼻に付く。

アスリートが試合と引き換えにするぐらい人種差別は深刻な問題

朝日社説はさらに指摘する。

「同様の動きは他の米スポーツ界でも見られる。プロバスケットボールや大リーグでは試合のボイコットがあった。選手として何より大切な、試合に出て結果を出すことと引き換えにしてでも、訴えねばならない事態がいま起きている。そんな切迫感の発露と見るべきだろう」

大阪なおみも前哨戦で一時棄権を表明したが、アスリートが試合と引き換えにするぐらい人種差別は深刻な問題なのである。沙鴎一歩は朝日社説の「切迫感の発露」という見方には賛成だ。

朝日社説は書く。

「背景にある米国社会の分断は深刻だ。抗議活動が先鋭化し、警察や白人至上主義者との衝突に発展した例もある。だが街頭に出ている圧倒的多数は平和的な手段を用い、周囲にもそうするよう呼びかけてきた」

米国社会の分断は、どうやって解決するべきか。政治の力は大きいはずだ。トランプ大統領の責任は重い。世界を引っ張ってきたアメリカが自らの社会から分断をなくすことができれば、世界に広がった分断もその姿を消していくはずだ。