アナリスト分析〈電子書籍市場〉●柴谷大輔(インプレス総合研究所所長)
電子コミックは、なぜ読まれるのか
電子書籍市場の成長が著しい。2018年度の電子書籍市場規模は2826億円(推計)。17年度の2241億円から585億円増えて、前年比126.1%の成長になった。この市場を牽引しているのが、コミックだ。文芸・実用書・写真集などの「文字もの」が43億円の増加だったのに対して、コミックは542億円増加の2387億円を記録した。
コミックが売れているのは、スマートフォンで手軽に短時間に読み終わり、続きが気になれば端末上ですぐに次の巻や話を購入できるからだ。各電子書籍ストアも、この特性を利用した売り方をしている。最初の巻、あるいは数話を無料で配信して、続巻の購入を促すのが王道の施策。「待てば無料」モデル(1日待てば1話無料で読める)を導入しているマンガアプリも人気だ。
テレビCMやネット広告にも積極的だ。最近はSNS上で、コマを見せる広告の効果が大きいと言われている。これも、続きが気になるというコミックの特性を生かしたマーケティングの1つだ。
オリジナル作品の質や量も重要な要素だ。「少年ジャンプ+」は、この点で強みがある。「週刊少年ジャンプ」で培ったノウハウで作家を育成。作品の質も高く、最近では、「SPY×FAMILY」が4巻で累計400万部を達成した。電子発でもこのようなヒット作品を生みだせるのが「少年ジャンプ+」の強みだ。
いまのところ在宅需要の増加で電子書籍市場も拡大している。20年3月に出版社や電子書籍ストアが、在宅支援のために無料で多くの作品を公開した。この時期に電子書籍に新しく触れたユーザーは多く、そのユーザーの一部が早くも有料に転換している。電子書籍ストアの中には、20年度になり単月の売り上げが過去最高を記録しているところも多い。過去に海賊版サイトが社会問題化したことにより電子書籍の認知が広がって市場が伸びたことがあったが、ウィズ/アフターコロナにおいても一過性とはならず、同様の現象が起こり得るだろう。
少年ジャンプ+編集長
2000年、集英社入社。「月刊少年ジャンプ」に配属され、マンガ編集者としてのキャリアを積む。以降、「ジャンプスクエア」を経て、12年から「週刊少年ジャンプ」に所属。アプリ・マンガ誌「少年ジャンプ+」の立ち上げに関わり、17年から現職。
柴谷大輔
インプレス総合研究所所長