そして特筆すべきは、手のジェスチャーだ。映像で見た場合、着座の状態は手が画面を占める割合が増える。そのため手の動きは強調され、人の視線を集めるようになる。

指先にもスピーチのメッセージが宿る

彼女は机の上で、両手の指先同士を重ね合わせ、何度もひし形を作る。これは「メルケルの斜方形」とドイツの地元メディアなどで呼ばれ、もはや彼女のトレードマークと言われている。

メルケル首相は、このポーズで心の安定をはかり、姿勢を正すためだと言及しているが、元FBI捜査官のジョン・ナヴァロ氏によると、これは尖塔のポーズと呼ばれ、社会的地位の高い人が日常的にするポーズで、考え方や地位等に自信があることを表す(※1)

※1:ジョン・ナヴァロ『FBI捜査官が教える「しぐさの心理学」』(河出出版)

好評なスピーチの裏側には、こうした視覚的な効果もある。ジェスチャーは自身にぶれがないこと、自分の考えにどれだけ熱心で自信があるかを国民に知らせる効果があるのだ。言い換えれば、指先だけでもコミュニケーションを交わせるということだ。

指先といえば、こんな話もある。私がメディアトレーニングを請け負った航空会社の広報担当者は、50代後半の男性にもかかわらず、爪を磨き、甘皮の手入れも行き届いており驚かされた。いざ会見が始まり着座すると、両手を机の上で卵でも包むかのようにふんわりと重ねた。

手入れされていない手元のアップ
写真=iStock.com/Alena Ivochkina
※写真はイメージです

できるリーダーはネイルにまで気を遣うワケ

これは、以前行った会見の録画をチェックした際、会見では爪のささくれまで映り込むこと、また手の位置が安定すると安心感が生まれ、誠実な印象に繋がることを発見し、手入れを欠かさないようになったそうだ。

私は、クライアントの演説やスピーチで、気づいたことを本人へ指摘するが、それを正しく理解していただくには、やはり、本人が自身の動画を見て気づく以上のきっかけはない。自分の目で見極めたことは、強く印象に残り、責任も生じ、次の課題を見いだそうとする。

こうした経験は、最近浸透したリモート会議で覚えがある人もいるのではないだろうか。会話とともに、服装をはじめ、表情、立ち居振る舞い、そして、文具のメーカーや背後の家具や写真立てなどおびただしい情報が、「あなた」を示すものとして発信されるのだ。

ペンをぶらぶらさせて回す癖、携帯電話を頻繁に眺めるなど無意識の動作が、あなたの印象や会話にどのような影響を及ぼすか、危機管理の一貫として、少しクリティカルに見直してみてはいかがだろうか。