名前や住所を書かせるアンケートをやめた

あらゆる業界において、売り上げが低迷する月と言われる「二八(ニッパチ)」。お盆で客が少ない、ボーナス商戦の影響で消費者の財布の紐が固くなる、寒さが最も厳しいので人が出歩かない……といった常識が根強く残っている。

<strong>「客足の少ない時期に来るお客様には、買う意志の強い方が多い」</strong><br>成約率はスタッフ平均で20~25%と驚異的だ。石田社長の2児の母としての視点も一役買っている。
「客足の少ない時期に来るお客様には、買う意志の強い方が多い」
成約率はスタッフ平均で20~25%と驚異的だ。石田社長の2児の母としての視点も一役買っている。

しかし、そうした“常識”をものともせずに成長を続けているのが、関西を地盤とする不動産デベロッパー、日本レイトグループのマンション販売会社ピルプワーク(大阪市)だ。創業当初は、親会社の日本レイトが開発した物件の販売代理を中心に事業を展開していたが、現在は日本レイトのみならず、大京、オリックス・エステート、近鉄不動産販売などの物件の販売代理も手がける。

社長の石田明美は、総勢70余名の女性を中心とした「マンション販売」のスペシャリスト集団を率いる。“二八”は特に意識しないという。現に、昨年8月は営業スタッフ5名で25件を成約させている。

石田はユニバーサル・スタジオ・ジャパンなどを経て、マンション業界へと飛び込んだ異色の経営者である。その経歴から生まれた手法が、モデルルームをテーマパークのように演出する、という販売スタイルだった。

石田はかつて、マンションの販売現場に足を運びながら、その販売手法に強い疑問を感じていたという。というのは、モデルルームに入るとまず、アンケートと称して営業担当者から名前、住所、連絡先を尋ねられ、その後、電話などによる販売攻勢が始まるからだ。「とりあえず物件を比較検討するために見たいだけなのに、営業担当者に売りつけられると思うと、マンションが欲しくても、モデルルームに入ることさえ躊躇する」と、率直に感じていた。

そこで石田は、マンションを売ろうとする「販売促進」ではなく、客のほうからマンションを「欲しい」と思わせる「購買促進」へと売り方をスイッチしたのである。