電話が鳴ったら新入社員が率先して受話器をとる。そんな一昔前の常識が、いまでは非常識に変わりつつある。「やりなさい」といっても、「どうして私がやらなくてはいけないのですか」と聞き返してくる。このとき、「それが、おまえの仕事だ」と一方的に怒鳴り上げてはダメ。ゆとり世代は自分が納得しないと、なかなか動こうとはしないからである。

「電話をとらないというけれども、先輩や周りの人にわからないことを教わることがあるだろう。その代わりに君は何をお返しするのかな。みんなができることを返し合うことで、ギブ・アンド・テークが成り立っている。それが人間関係の基本だ。一方的にもらうだけでは関係性は保てないよ。じゃあ、いま君にできることって何なんだろう。このぐらいストレートに伝えることが重要だ」とアドバイスするのは、『ゆとり社員の処方せん』の著書もある人材教育サービス会社ウィル・シードの池谷聡商品開発部長だ。

ゆとり世代は自分たちの親の世代がリストラにあって苦労する姿を間近で見ているだけに、一刻も早く成長したいと切望していることが多い。そうしたこともあって、電話の受け答えのような仕事は自分の成長には役立たないと短絡的に考えてしまう。札幌で若手社員の教育に悩む経営者の相談にのる田北百樹子社会保険労務士は、「どう私を教育してくれるのですかと上司に真顔で尋ねた新入社員がいた。自分が会社に貢献することなど、まるで眼中にない様子で驚く」と話す。

図5:叱られた経験は自分のためになったか
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図5:叱られた経験は自分のためになったか

いかにせよ、ゆとり世代の新入社員は家庭でも学校でも叱られた経験が乏しく、叱られることが自分のためになるとは考えたがらない(図5参照)。逆に叱った上司や先輩社員は自分のことを嫌っていると思い込む。そして信頼できない人間とのレッテルを勝手に貼り、その後は関わりを拒否する傾向を強めることすらある。池谷部長のように、ゆとり世代の成長意欲にうまく絡ませながら納得させることがベストの解決策なのである。

ここで大きな問題となってくるのが、前出の柘植社長が「ベトナム帰還兵のジョン・ランボーに似ている」と評する、就職氷河期の時代に入社した20代後半から30代の先輩社員たちの存在だ。彼らは激烈な就職戦線、厳しい事業環境のなか歯をくいしばりながら生き残ってきた。また、会社に余裕がなく、管理職や指導者としての訓練をほとんど受けてこなかった。最近まで職場で後輩を持った経験すらない者もいる。

だから、新入社員の指導を任されても、何をどうしていいのか皆目見当もつかない。一方では成果主義の下で自分の成績もあげなくてはならず、挙げ句の果てに「俺の背中を見てついてこい」といった“昔気質”のOJTに走ってしまう。「やれ」というだけで、アドバイスもフォローも一切ない。そうした行為について前出の樋口社長は「まさに放置プレーにほかならない。ほったらかしの文化から、かまってあげる文化への転換が最も重要なのだ」と手厳しく批判する。