企業の自由な活動を促すイスラエルのやり方

戦後の日本では、政府が産業構造のあり方を考え、政策によって産業振興を推進しようとしてうまくいった。しかし、中心となっていた産業が製造業だった時代と、デジタルがグローバル経済を牽引している今とでは、時代が全く違う。戦後の産業政策と同じことをしようとしても、うまくはいかないだろう。

一方、イスラエルで印象的だったのは、スタートアップ振興を行う政府組織、イノベーション庁が、環境整備に徹し、民間をリードしようとはしていないところだった。日本の産業政策とは対照的で、スタートアップにはかなり自由に活動させる。たくさんのスタートアップのなかから、自然に淘汰されて、良いものが残るというのが基本的なあり方と考えているようだ。

当初は政府の投資によってベンチャーを後押しするスタートアップ推進政策だったが、2000年代以降は、産学主導に切り替え、インキュベーター、アクセラレーター、VCなど民間企業による資金やノウハウを提供する仕組みを奨励してきた。政府は高リスクの事業への資金、ノウハウの提供など状況に応じて、役割を変え、必要があるところだけサポートしている。

日本のスタートアップ振興は「今が正念場」

イスラエルでスタートアップを経営している寺田彼日氏が数年前、助成金の相談をしに政府機関のイノベーション庁に行った際、出てきた担当者は、自らも10年以上起業やビジネスをしていた経験がある人だったという。起業家と共通の経験や言語を持つ人が、政府の側でスタートアップ振興を行っているというのは、理想的な姿だろう。

ドイツの「インダストリー4.0」や世界経済フォーラムの提唱する第4次産業革命に対して、世界ではイノベーションやスタートアップを振興する政策を本格的に推進している。こうした動きに対抗して、日本のビジネス界も経団連を中心に、「ソサエティ5.0」を掲げ、イノベーションを軸とした経済の変革を目指している。

特に今は大企業がイノベーションを緊急の課題ととらえている。このため、スタートアップと大企業の連携促進を目的に、定期的に会合を開いているという。大企業側の参加者を、意思決定権を持つ執行役員以上に限っているところがユニークだ。

また、高齢化する日本でニーズの高い、デジタルヘルス分野のスタートアップを中心とした調査団をイスラエルに送るなど、これまで見られた「情報は集めるが成果に結びつかない」という問題を解決するための具体的な動きも始めているようだ。目指す方向は正しいので、どこまで成果をあげられるか、今が正念場だ。