「デフレ宣言」は金融緩和政策へのシグナルだったのか

このように、日本のみが消費者物価水準の下落が続いていることもあり、政府は「デフレ宣言」を行い、「持続的な物価下落」を止めるための何らかの措置をとることを示すための「シグナル」を公衆に送りたかったのであろうと期待したくなる。まさか、デフレに対する政策対応を示さずに、日本経済が「デフレ」、すなわち「持続的な物価下落」に陥っていますということだけを公衆に知らせようとしたわけではないであろう。もしそうだとすると、政策対応が示されない「デフレ宣言」は、デフレの自己実現的予想を通じてデフレ・スパイラルを引き起こしかねない。実際に「デフレ宣言」によってデフレ・スパイラルが始まったという見方もある。すなわち、公衆がデフレ予想を抱くと、賃金・価格の下落を要求し、受け入れやすくなるために実際にデフレを引き起こすという自己実現的予想がデフレを加速することになる。

むしろ政府の「デフレ宣言」は、公衆へのコミュニケーションというよりは、日本銀行へのコミュニケーションだったのではないかと疑いたくなる。日本銀行は、政府の「デフレ宣言」に呼応するかのように、11月20日の政策決定会合後の白川方明総裁の記者会見において、政府の「デフレ宣言」を追認した。そして、12月1日には、新しい資金供給手段の導入によって、3カ月というやや長めの期間、金利を0.1%という超低金利への低下を促すことを通じて、金融緩和の一段の強化を図ることを決定した。

さらに、日本銀行は、09年12月18日に公表した「『中長期的な物価安定の理解』の明確化」において、「金融政策運営に当たり、各政策委員が、中長期的に見て物価が安定していると理解する物価上昇」について、これまでの「0~2%程度の範囲内にあり、委員ごとの中心値は、大勢として、1%程度となっている」というものから、「消費者物価指数の前年比で2%以下のプラスの領域にあり、委員の大勢は1%程度を中心と考えている」というものへ変更した。すなわち、この公表によって、日本銀行が「0%以下のマイナスの値は許容していない」ことを明確化した。したがって、日本経済が「持続的な物価下落」のデフレに陥っているなか、「0%以下のマイナスの値は許容していない」ことを明確化したことによって、日本銀行は、より一層の金融緩和政策に向かうというシグナルを送ったことになる。

政府による「デフレ宣言」は、日本銀行により一層の金融緩和政策をとるようにシグナルを送っただけだったのであろうか。それは、まるで某航空会社による「搭乗手続きを一時中止しています」というアナウンスが、他の航空会社に対して「フライトの振り替えの乗客がそちらに向かうので、用意しておいてください」というシグナルを送っているかのようである。むしろ公衆は政府から今後のデフレ対策に関するコミュニケーションを待ち望んでいる。

(図版作成=平良 徹)