【田原】お金を払わないと外に出られないわけだ。

【阿久津】はい。駅の中だと現金回収の人件費などのコストが大きいので、今回はキャッシュレス。Suicaで決済していただくことになります。

阿久津 智紀●1982年生まれ。2004年専修大学法学部卒業後、JR東日本へ入社。駅ナカコンビニNEWDAYSの店長や、青森でのシードル工房事業、ポイント統合事業の担当などを経て、ベンチャー企業との連携など、新規事業の開発に携わる。19年7月より現職。

【田原】キオスクの店員さんと比べてどうなんだろう。ベテランだと、人のほうが早いんじゃない?

【阿久津】人での対応はもう限界です。昔、駅の売店は、三種の神器である酒、タバコ、新聞が売れていれば成り立ったのですが、それらが売れなくなった。かわりにお菓子やサンドイッチを売っていますが、利益率が低くなり、高人件費にはとてもじゃないですが耐えられません。

【田原】なるほど、だから無人化が必要なんだ。でも、無人とはいえ、品出しは人手がいるでしょう?

【阿久津】われわれは無人店舗ではなく「無人決済店舗」と呼んでいます。決済や商品管理の部分を無人にするだけなので、ほかは人の手でやらざるをえないですね。

【田原】でも、人を常時置く必要はなくなりますね。たとえば自動販売機に飲み物を補充する人みたいに、誰かがいくつかの店舗を巡回して品出ししてもいいわけだ。

【阿久津】それを狙ってます。私は駅の中の自販機の仕事もやっていたのですが、日本の自販機って、食品がまったく売れないんですよ。じつは米国が約600万台、日本が約500万台とほぼ同じくらいの飲料自販機がありますが、さらに米国は約100万台くらいの食品自販機がある。きっと日本人は、食品は手に取ってボリューム感や質感を見てから買いたいんでしょうね。無人決済コンビニなら、そうしたユーザー体験を大事にしたまま、自販機のような効率性も実現できるんじゃないかと。

どうしてJR東日本で新規事業だったのか?

【田原】もともと阿久津さんはJR東日本の社員だ。どうして無人コンビニをやることになったのですか?

【阿久津】JR東日本はこれまでさまざまな事業をやってきました。ただ、やる前に計画書をつくって、予算取りをして、会議にかけて、設計してというプロセスを経るうちに3年くらい経ってしまうことが珍しくありませんでした。これでは世の中の流れについていけないなと感じていたときに、オープンイノベーションという考え方を知り、JR東日本でもそれをやろうと提案。それでできた会社が、JR東日本スタートアップです。その会社でのプログラムで、サインポストというベンチャーと出合って、一緒に無人決済店舗をやろうという話になりました。