20年前から下がったニューハーフ嬢の相場

以上、畑野さんの調査報告について、私見を述べてきたが、最後に2つ、気になることを指摘しておこう。

まず、経済的な問題。ニューハーフ風俗の「市場」が拡大し、そこで働く人が大幅に増えたことは間違いないとして、急増したニューハーフ風俗嬢たちは果たして十分な収入が得られているのだろうか? という疑問だ。

性的サービス業は水商売よりさらに人気商売だから、昔からピンキリ、つまり収入上位者と下位者の落差が激しい。とはいえ、セックスワークのリスク(暴力被害、性病感染。女性のセックスワーカーの場合は、それらに望まない妊娠が加わる)を考えると、リスクに見合う収入がないとやれない。早い話、牛丼チェーン店で働く方が、収入が良いような金額ではセックスワークはやっていられない。

畑野さんの調査は料金について触れていなかったが、ネット広告をざっと見た限り、東京の大手は1時間1万6000~2万円が相場のようだ。私が知っている1990年代末の新宿の女装街娼の相場は90分2万円で、客がつかないとダンピングして1万8000円になり、1万5000円が下限だった。基本時間が異なり厳密な比較は難しいが、同水準かやや下がっている。少なくとも、20年経っているにもかかわらず上がっていない。

ちなみに、女装男娼のお値段は、同業の女性の2割引(8割)というのが歴史的に相場だった。敗戦後の1948年、女性が500円だったら400円、アフター・バブルの1990年代、女性が2万5000円だったら2万円というように。

セックスワークにはそれなりの対価が担保されるべきだ

「人形のお時」『文芸読物』1949年2月号
ノガミ(上野)の男娼。敗戦後の1946~1948年、東京の北の玄関口・上野駅界隈には、女性の街娼とともに多くの女装男娼が集まった。「西郷さん」の銅像の下で客を待つのは、ノガミ男娼世界、第一の美貌といわれた「人形のお時」姐さん。

女性の売春(非合法)相場が下がっている影響かもしれないが、やはり供給過剰なのではないだろうか。今までは供給過剰でも業者が暗黙の連携で相場を維持してきた。ところが、SNSを使った個人営業が増えてくると、一部で「値崩れ」が起こり、相場の下落をまねく。

先ほど、牛丼チェーン店で働く方が……と述べたが、このまま供給過剰が続き「値崩れ」が波及していくと、牛丼チェーンで働く方がマシという事態が生じかねない。現実に、ゲイのセックスワークでは、「牛丼一杯」とか「ワンコイン」(500円)という話を聞いたことがあるので、杞憂きゆうとは言えない。

セックスワークには、そのリスクに見合う対価が支払われるべきである。なにより、セックスワークと貧困がリンクしてしまうと、セックスワーカーの生活と人権が損なわれることになるからだ。