安定した政権が可能にした消費税率引き上げ

今回の消費税率引き上げに関して重要なことは、税率そのものを引き上げることができたということだ。それが可能となったのは、長期にわたって安倍政権が政治基盤を維持してきたことに支えられた部分が大きいと考えられる。政権が短期間で交代するなどして政治が混乱してしまうと、国内の多様な利害を調整することは難しくなる。その状況では、人々に負担を強いる消費税率の引き上げを決断し、実行に移すことは難しい。

さまざまな主張がある中、消費税率引き上げなどを通した財政健全化は、わが国の社会保障制度の持続性を維持するために大切だ。少子化、高齢化に加え人口減少が進むわが国において、国民一人ひとりがより安心できるくらしを実現するために、社会保障の安定は欠かせない。年金の給付や国民皆保険制度の維持が難しくなれば、人々の日常生活への不安は大きく高まってしまう。

リーマンショック後に財政危機に陥ったギリシャは、IMF(国際通貨基金)などに支援を求めざるを得なくなった。財政立て直しのために年金の減額などが行われた。多くの人々が緊縮財政に反発し、デモに参加した。これは、財政の安定がわたしたちの人生に無視できない影響を与えることを示す良い例だ。

熟慮を重ねた景気に配慮した措置

今回の消費税率引き上げに向けて、政府は、税率引き上げに伴う経済への影響を緩和すべく、さまざまな取り組みを準備してきた。その背景には、過去の消費税率引き上げがわが国の経済にマイナスの影響を与えたとの反省がある。1989年に3%の消費税が導入されたのち、1997年には税率が5%に引き上げられた。この年、わが国では“金融システム不安”が発生し、消費税率の引き上げは景気を冷え込ませてしまった。2014年4月の消費税率引き上げ後は、駆け込み需要の反動減により景気モメンタムは弱まってしまった。

それでも今回、政府は消費税率引き上げに踏み切った。それだけ政策当局にとって人口減少下での財政状況への危機感は強いということだろう。

政府は過去の経験を生かして、増税前の駆け込み需要、増税後のその反動減の発生によって、短期のうちに景気が大きく変動しないよう対策を講じた。主な措置に、キャッシュレス決済に対するポイント還元制度、自動車や住宅の購入支援、飲食料品や新聞を対象とする“軽減税率制度”の導入などがある。理論的に考えると、それぞれの内容はよくできていると評価できる。