中間層の絶大な支持を受けて当選したオバマ大統領がなぜ「100年に一度の危機」に対して抜本的な金融改革をなしえなかったのか。本書はこの疑問に数多くの具体例を挙げて答えてくれる。一言でいえば、オバマ大統領はもともと「『草の根』の生活者」(8ページ)側の人間ではなく、ウォール街の代弁者なのだ。

オバマ大統領の経済閣僚人事一つとっても、素人目には不可解なことだらけだが、彼が米金融業界と昵懇であることを踏まえてみればすべて腑に落ちる。クリントン大統領時代の「マーケットの三銃士」(178ページ、当時の肩書でルービン財務長官、その後任のサマーズ長官、グリーンスパンFRB議長)が「金融市場の規制緩和を促進、史上最大のバブル膨張の基礎を築いた」(同ページ)張本人であるにもかかわらず、オバマが経済・金融問題を「新マーケットの三銃士」(180ページ)に委ねた。サマーズに加えて、ルービンの寵愛をうけたガイトナー、そしてグリーンスパン時代にFRB理事だったバーナンキの3人である。

ボルカーFRB元議長はバブル生成防止に執念を燃やし、巨大銀行にタガをはめるために、厳しい金融改革案(ボルカー・ルール)を提唱したが、新旧三銃士のどちらにも登場するサマーズ(オバマ政権では最高経済顧問)は、2010年のダボス会議で「金融界と対決する考えはない」(66ページ)と答えている。

最初から抜本的な金融制度改革をする意思など持っていなかったし、そもそも大統領選の初期に他のどの候補よりもウォール街から多額の献金を受けていたオバマが、支援者の不利になるような改革を断行するはずもない。オバマは「グラススティーガル法の撤廃で主導的な役割を果たした90年代のバブル世代に、経済・金融の舵取りを委ねるという時代錯誤に陥っていた」(31~32ページ)のである。

さらに、何気ない振る舞いをも見逃さない鋭い観察眼を持ち合わせた著者の主張には説得力がある。公的資金を受け入れたバンク・オブ・アメリカに買収されてもなお金に執着を見せたメリルリンチのセインCEОとオバマ大統領は、とある部分で趣味が似ているという(152ページ)。その一事からも、オバマ大統領がウォール街の住人と同類であることがうかがえる。

もっとも、「30年バブル」(96ページ)が崩壊したのだから、責任は新旧三銃士だけにあるのではない。本書は「米国で最初の中央銀行が創設された1791年までさかのぼり、200年余りの歴史を縦糸」(8ページ)、ホワイトハウス、議会、FRB、そしてウォール街の情報をすり合わせて「横糸」(同ページ)に全体像を浮かび上がらせるのだ。

本書は「金融」を軸に建国以来の米国の本質に迫っているが、「金融」を「原発」に置き換えるだけで、妙に今の日本と重なるのはなぜだろうか……と新たな疑問と恐怖が湧いてきた。