うつ病で長年薬を飲み続けているという人は多い。だがそれで症状はよくなるのか。夫婦ともにうつだった経験を持つ砂田康雄さんとくにえさんは「うつから卒業するには、生活習慣と、考え方の見直し、それに薬の調整が重要だ」という。夫婦が回復をサポートした17歳の女子高生の事例を紹介しよう——。(前編)
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「減薬」しながら生活習慣を見直したことで劇的に回復

10年間、私はうつ病に苦しんできました。

原因は過労でした。医師の投薬治療を受けながら仕事を続けていましたが、ついに出張先の名古屋で倒れてしまいました。働けないどころか、一時は毎日寝たきりで、薬の副作用でカテーテルを使わないとトイレにもいけません。家族にも理解してもらえないいら立ちや思い通りにならない怒りから、壁を殴ったり、家具を壊したり……。ついには強い自殺願望にさいなまれるようになりました。

そんな私がうつ病を克服したのは2010年のこと。知り合いのドクターからのアドバイスで「断薬」と偏った考え方、生活習慣を見直したことで劇的に回復しました。以来、妻が設立していた「うつの家族の会 みなと」で、自分自身の体験を通し、うつ病について知っていただく講演活動や、セミナーを行うようになりました。

厚生労働省によると、平成26年に医療機関を受療したうつ病・躁うつ病の総患者数は112万人です。それだけの人がうつに苦しんでいます。そして医師を信頼し、薬を飲み続けたけれど、まったく症状が改善せず、長期間にわたって苦しんだり、再発と回復を繰り返す方がいます。薬を飲んで、安静にしても、うつは完治しません。これさえすれば必ず治るという正解はないのです。

母親が精神科に連れて行くと、反対に症状は悪化してしまった

では、どうするか。不安やいらいらの原因を探りながら、考え方を見直し、生活習慣を改める事です。その上で減薬を行う。もちろんうつを抱える人が、自身の力だけで立ち直るのは大変難しい。周囲の支えと専門家のサポートが必要です。

10年間の闘病で、そう実感していた私と妻は、うつ症状に悩むご本人とご家族をとことんサポートしようと2012年に有料会員制「うつ卒倶楽部」を立ち上げました。この6年間でのクライアントは約60人。ほぼすべての方がうつを卒業されました。

なかでも印象に残るクライアントは、都内に住む17歳の女子高生のAさんです。私立の進学校に入学したものの、徐々に教室から足が遠のき、自室に引きこもる時間が長くなっていきました。

心配したお母さんが彼女を精神科に連れて行くと、うつ病と診断されて、薬が大量に処方されました。しかし症状は一向に改善せず、やがて完全な不登校になってしまいました。処方された薬を飲み続けたところ、いらいらや怒りが募り、お母さんに暴力を振るうようになってしまったのです。