出生前診断は「安易な中絶をまねく」のか

最も有名な染色体異常であるダウン症の発症率(※)は、20歳では1667分の1だが、30歳では952分の1、40歳では106分の1と、20歳に比べ40歳の発症率は約16倍に増加する。とはいえ、ダウン症以外の染色体異常を含めても、40歳でも98%以上の女性は正常な赤ちゃんを産んでいる。

※内閣府「妊娠適齢期を意識したライフプランニング」(2014年)

2009年、歌手の倖田來未さん(当時25)がラジオ番組で「35歳になるとお母さんの羊水が腐る」との発言が大きな波紋を呼び、「デリカシーがない」などのネットで炎上したことがあった。先天異常や出生前診断の話題は「安易な中絶をまねく」「命の選別」と非難されやすく、この分野の国民的議論が不足している。

お金問題も含め、中絶は是か非か

ひとりの医師としては、胎児を産むか否かは妊婦とパートナーで決断する案件であり、「安易な中絶」「真剣な中絶」と他人が判断するものではないと思う。増税や社会保障費は子育て世代に重くのしかかり、「年収300万、手取り月20万」といった若い世代の夫婦は珍しくない。「子供は欲しいが、障害のある子供を育てる経済的心理的余裕はない」という結論にいったとしても、それをとがめるのはいかがなものだろうか。

日本の人工妊娠中絶は「22週未満」と法律で定められている。地方在住の女性で複数回上京して検査を受ける場合、交通費もバカにならないし、何度も休めない職場も多い。最終的に妊娠中絶となった場合、手術費用(20万~50万円)も工面する必要もある。

非認定施設でのNIPTは是か非か

NIPTに関しては「営利目的での検査が広く行われる状態は好ましくない。誤った結果に基づいて中絶が行われないよう、羊水検査を義務づけるなどの対策を講じるべきだ」(仁志田博司・東京女子医大名誉教授、朝日新聞2019.8.17付1面)といった意見がある。

胎児の染色体の異常を「確定」するには、民間の美容外科クリニックなど非認定施設での検査を含むNIPTの結果だけでは不十分であり、不確実な結果に基づく中絶につながってはいけない。ただし、100%の確定できる診断ではないからといってNIPTを「安易な検査」と非難すべきではないかもしれない。