セレブたちも大統領との「友情」を利用した

映画に描かれていない米国大統領は、第10代のジョン・タイラーだけ。大統領とハリウッド、政治と映画は、密接に結び付いている。『國民の創生』でリンカーンが神格化され、『独裁大統領』で、剛腕F・D・ローズヴェルトが不動の地位を得たように。

ハリウッドセレブ(俳優などの著名人)にもっとも愛されたのはケネディで、嫌われたのはニクソン。ほとんど無視されたのが、ボブ・ディランとジーンズを好む、南部出身の人権派カーターだった。

村田晃嗣『大統領とハリウッド-アメリカ政治と映画の百年』(中央公論新社)

若くてセクシーで知的で、非業の死を遂げたケネディに、ハリウッドは熱い視線を送った。『五月の七日間』『最後の勝利者』『ダラスの熱い日』『JFK』など、傑出した「英雄」は、死後もなおスクリーンの中で生き続ける。

ウォーターゲート事件で失脚した「狡猾なディック」ことニクソンは、今に至るも、ハリウッド映画に悪のイメージを提供し続けている。『大統領の陰謀』『名誉ある撤退 ニクソンの夜』等々。

皮肉なことに、愛されたJFKは映画を好まず、セレブに関心もなく、上映から20~30分で席を立つのが常だった。嫌われたニクソンは無類の映画好きで、在職中の5年7カ月間に500本もの映画を鑑賞したという。

映画は時代を映す鏡だ。著者は、250本以上の映画を絡めながら、歴代大統領とその時代を浮き彫りにする。

元俳優の「銀幕の大統領」レーガンは、イメージ戦略に長けていた。数々のセレブが「東のハリウッド」と化したホワイトハウスに招かれ、大統領の人気を支えた。セレブたちも大統領との「友情」を大いに利用したという。